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【無料】「自分で考える」が大事と言われても・・・

 「自分で考える」ことの重要性や大切さは、自己啓発やビジネスの本をはじめとして、あらゆるところで言われてきた。すでに当たり前となって、使い古されたフレーズともいえる。そもそも「自分で考えるのが大切だよ」「自分で考えなさい」と言われて、「よし!自分で考えよう」と決意したところで、すでに自分で考えていない態度をとっている。「自分で考える」が大事と言われても、考える大切さを人に教え説くこと自体が、相手が自由に考える機会を奪ってしまう矛盾を孕んでいる。

 どうして人間は自分で考えることをやめるのか。一言でいえば、自分で物事を考えることが億劫だからだ。誰しもが常識というものだったり、過去の自分の経験をもとに行動している。そういう信頼できる情報について、いちいちあれこれ考えていると普段の生活を送るのが大変だ。それだから、考えることを省略して、ラクをしようとする。繰り返しの日々の営みであれば、考えない行動をしても問題になることは少ない。
 「テレビで〇〇さんが言っていたから」「SNSでみんなが言っているから」を理由にして、自分で考えるのをやめて、他人に委ねるようになると危険な香りがする。さまざまな情報源を参考にして情報の信憑性を吟味する面倒さを省いてしまうと、考えずに行動しない人間になってしまう。考えない行動をとる人間は、お金を稼ぎたい人間や会社にとって都合がよく、不自由な生活を知らずのうちに送ってしまうかもしれない。
 他人に依存していなくても、自分自身に依存してしまう自信過剰な人もいる。ある事柄に対して「こうであるに違いない」と自分のなかで考えがまとまってしまうと、他の意見や立場を受け入れられなくなる。考えをまとめるまでは、自分自身で考えているが、一度落ち着いてしまうと考えることをやめてしまう。こういう傾向は傲慢や頑固と表現され、考えることをやめた態度の1つといえる。自分自身の考えに固執しているという点で不自由といえる。

 どちらにしても、考えることをやめてしまう原因には「どこかに絶対に正しい答えがあって、そこへ容易にアクセスできる」という思い込みがある。自分に自信がないひとであれば、自分が信頼している人やメディアに答えがあると信じている。「みんなもそう言っている」という場合は、多数派というものが正しい答えへと導いてくれると思い込んでいる。
 自分に固執する人は、自分自身で答えを見つけられるはずで、自分が納得できたものが答えに違いないと思い込んでいる。一度自分のなかで答えが見つかると、すべてをわかった気分になってしまう。絶対に正しい答えはすでに自分の中にあるのだから、自分と異なる周囲の意見や考えは間違いであって、話を聞く必要がないと考える。そういう傲慢な傾向の人には、「人間は間違える生き物だ」という言葉を送りたい。

 では、どうすればよいのか。僕は、「絶対に正しい答えは、簡単にみつかるものではない」と自分に言い聞かせ、いろんな情報を収集して、収集した情報をもとに自分で考えようにしている。自分の考えは、あくまで自分が調べた範囲でわかったことであるから、絶対に正しいとはいえない。せいぜい「自分で調べて考えた限りでは、このぐらいのことはいえるかな」という程度にすぎない。それでも、他の人と意見が違ったり、他にはない意見であれば誰かの参考になるのかと思っている。本エッセイの基本姿勢ともいえる。
 わかりやすい答えが見つけられないと、ハッキリとした着地点に辿りつかないので不安が残るが、その不安をそのままに受け止める勇気が必要だ。自分で考えたくない人は、確定しない説明や回答に不安を感じて、その不安から早く逃れようとして、考えないままに疑わしい答えに飛びついてしまう。「これが本当のことだ」「真相はこうにちがいない」と自分に言い聞かせて、不安を解消しようとする。そうやって、自分で考えることをやめてしまうのが多いように見受ける。

 自分で考え続けるには、不安を受け入れつつも考え続けるという勇気がいる。その勇気をもって導いた自分なりの回答であっても、それが絶対に正しいとは思わない(思ってしまうと、自分自身に依存してしまう)。あくまでも自分の考えたことは、自分が知り得た情報や経験や知識に基づいたもので、限界があると自覚する。もしかしたら自分は間違っているかもしれない。自分より優れた考えや回答が他にあるかもしれない。その謙虚さが、周囲の意見を聞く姿勢へつながる。周囲から吸収した内容をもとに、さらに自分自身の考えが変わっていく。新しい自分と出会える。

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