オレは女が嫌いだが 2
帰りにいつもの居酒屋に寄った。
刺身の盛り合わせを一人用にしてもらい、何か揚げ物を注文して、〆のうどんを食べる。それがいつものスタイルだ。
だが今日は。
「酒だ~、酒持ってこ~い!!」
「おい、京平君、大丈夫か?」
常連のツネさんに心配される。ツネさんは五十絡みの東京っ子で、キレイに整えられた白髪が清潔感がある。
「うるせえ! ツネさんに何が分かるんだよ! 嫁さんもいて、子供もいて、そんな人にオレの苦労なんざ分かんねえよ!」
オレはカウンター席の左端でくだを巻いていた。みっともないったらありゃしない、冷静な目でいたらそう思っただろうが、その日のオレはどうして冷静でいられただろうか。
林田さんのこぼすサインはオレへの好意ではなかったのか? だったらなんなんだ? 意味が分からん。
その時、カウンターの右端、ちょうど反対側から静かな声が聞こえた。
「兄ちゃん、情けないな。女にフラれて絡み酒。男が廃るとはこのことやな」
「んあああああん?!」
オレは秒速30mの速度で首を巡らせた。そこにいたのは、アロハシャツ姿の女。ボブカットの下、赤地に黄色のハイビスカスが咲いている。
「情けないて言うてんねん。カッコ悪い」
後半の一言にオレの心は打ち砕かれた。カッコ、悪い……?
思考停止し、動作も停止したオレになおも女はたたみ掛ける。
「ええ店やのにしけた面して、しけたこと言うて、みんなに一杯ずつおごり。悪いこと言わんから」
どんな理屈か全く分からなかったが、オレはツネさんと女に一杯ずつ酒をごちそうすることにした。オレが渋々頷くと女は目を爛々と光らせた。
「大将~!! 十四代な!! 龍の落とし子!!」
オレは頭をぶん殴られた衝撃を覚えた。それ、グラス2,000円!!
慌てて抗議しようとすると奥から大将が現れた。
「あのね、シュリちゃん。他のお客さんにたかるのやめなって」
大将は苦笑いで言って、こちらにどうもすみませんと謝って見せた。
この女、オレより常連度が高いのか、気に食わねえ。
「大将、いいですよ。オレが騒いだのが悪いんです。龍の落とし子でも、なんでも持って来いです」
「兄ちゃん!! アンタ、ええ男やなー!! 鶏レバーの甘辛煮も付けてや!!」
「おう!! ええで!!」
オレはなぜかエセ関西弁になって、女と親しげに話している内に記憶をなくしてしまった。
翌朝目覚めると、自宅のベッドの上だった。
続く
おはようございます、こんにちは、こんばんは。 あなたの逢坂です。 あなたのお気持ち、ありがたく頂戴いたします(#^.^#)