第四章 人生は旅のようだと言うけれど。
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2018年6月27日、3ヶ月に渡るファーム生活が終わった。
ファーム最後の日は、午前中で終了。
あまりの嬉しさに、にやけが止まらなかった。
いよいよ僕の旅が始まる。
オーストラリアでは初めてのひとり旅。
旅の前はいつだってワクワクしている。
出発前のパッキング、バスや宿のブッキング。旅全体の流れは決めていても、具体的に、どこで、何をするのかは決めていかない。
情報は基本的に現地調達。
もちろん、スマホで調べる事もあるけど。
バッパーの仲間達に見送られた、2018年6月29日金曜日。僕の旅は始まった。
語学学校をワーホリ第一章とするならば、ファームは第二章。このひとり旅が第三章の幕開けとなる。
この時点で、オーストラリアに来てから7ヶ月が経過していた。しかし、本当の意味でのワーキングホリデーが始まったなと思ったのは、この旅を始めた時だった。
英語の勉強のために語学学校へ行き、セカンドビザの為にファームへ行った。もちろんどちらも、行く行かないは個人の自由なのだが、「やらなければいけないもの」を終わらせた達成感の方が凄まじかった。
日本にいる時から、決まっていた語学学校の4ヶ月。セカンドビザを取る為には必須なファームでの労働という条件。
その2つをクリアして、僕はやっと全てが自由になったような気がした。
もう申し込んでいる語学学校も無い。ファームも行かなくて良い。何してもいい。全ては、僕の選択。思うがまま。
本来ワーキングホリデーとはそういうもののはずなのに、知らない間に自分で自分を縛り付けていた事に気づいて、そして、そこから自分自身を解放できた事に、不思議な心地よさがあった。
旅のルートは、ケアンズからブリスベン。行きたい街が2つ3つあったが、特に決めていなかった。
まずは、旅の情報集めと、長距離バスのチケットを買う為にイニスフェイルから、ケアンズへ。
グレイハウンドという、オーストラリアの東側を網羅している長距離バスを使って旅をする事に決めていた。
そのチケットを買う為にケアンズのグレイハウンドのカウンターへ。
ネットでも購入する事はできるのだが、どのチケットを買ったら良いのか分からなかったし、何より人に聞いてカウンターでチケットを買うという、アナログで、そして最も旅らしい事をしたかった。
スマホ1台でなんでもできる時代。便利で楽な反面、人との関わりが薄くなっているような気がする。英語に自信がないからと、殻にこもっていては、スマホ時代の毒牙にかかることになる。
それはやっぱり嫌だったし、英語に関してはファームで散々こき下ろされたので、さすがのビビりの僕でも、もう怖いものはなかった。
第二言語だし。と開き直りができたのは確実にファームで打ちのめされたおかげである。
しかし、それも杞憂に終わった。
図らずも3ヶ月間という長い時間を、100%の英語環境で働いていたおかげか、チケットを買う時も、そしてこの後のブリスベンまでの旅でも、英語に困る事が一度もなかった。
たぶん、実際には聞き取れない英語もたくさんあったと思うし、聞き返す事もたくさんあったと思う。
でも少なからず、前の自分のように、その1つ1つに一喜一憂したり、気に病んで殻に篭るというのは無かった。
できなかった事も気にしなくなっていたのだと思う。
だからこそ、話せなかった、聞き取れなかった記憶もなく、英語を話す事は楽しい事だと思った記憶が鮮明なんじゃないかな。
ファームに行った事をこんなにも早い段階で、「よかった!」と思うとは、F*CKと言われていたあの日は知る由もなかった。
ケアンズで、無事ブリスベンまでのバスのチケットを購入した僕は、チケットを入手した事への安心感と、英語に困る事なくスムーズなやりとりができた事による自信を持って、観光案内所へ向かった。
日本で旅をしていた時も、初めての土地に着いたら、街の地図をもらうようにしていた。それは、旅の思い出でもあり、僕自身のお土産でもあり、僕の中で、その土地に行ったという証でもある。
グーグルマップのAIにはない、人の暖かさのようなものを感じられたり、 あとは、単純にアナログの地図を眺めているのが好きだという事もある。
グーグルマップは、親指ひとつでどこまででも連れて行ってくれるし、ネットに繋げさえすれば、もう無敵の怖いものなし。魔法の道具を手に入れたと同じ状態になれる。
一方でアナログな紙の地図は、経路検索はできないし、目的地まで着く時間も曖昧。GPSなんて無いから、まず「わたしはどこ」状態から脱する事が必要だ。
僕らのように、日頃からスマホひとつで分かる世代にとっては、いや、これは僕だけかもしれないが、その不便で、でも不便の裏にある、親指ひとつじゃどうにもならない、やるせなさが、どうにも愛おしい。
旅をしているぞ!っていう自分にも酔える。
有名な観光地でもなく、絶景でもなく、タダで手に入る地図に、僕は旅を感じる。
だから、まずは観光案内所に行くのだ。
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