都会の女子高生
母は私の進学先がほぼ決定したと言わんばかりに喜び(その大学の教授を紹介してもらうという段取りが決まっただけなのに)、翌日はリエママの娘、リエちゃんと数年ぶりに“子どもだけで遊んでも良い″許可が降りた。
リエママの娘、リエちゃんと会うのは3年ぶりでドキドキしたが、原宿駅で待ち合わせする際、私の背が高いことを目印にしたらお互いすぐ分かった。
リエちゃんは相変わらず綺麗な黒髪のロングヘアを腰まで伸ばし、アジアンテイストなファッションをしていた。リエちゃんの横に知らない女の子が立っていた。同じ女子校だというマキちゃんは、濃いめの茶髪のワンレンに黒のレザーのマイクロミニ丈のスカート、厚底のサンダルを履いた初めて見る都会のギャルだった。
私は…古着となんちゃってロリータをmixさせた服装だが、これでも選びに選んだ服だった。キューティーやジッパーを穴があくほど読んでは試行錯誤し、行きたいお店もたくさん調べていた。
とりあえず3人でお決まりの竹下通りを歩きながら、リエちゃんオススメのクレープ屋さんのクレープを食べた。リエちゃんもマキちゃんも私も高校2年生、話すことは山ほどある。私が行ってみたい洋服屋や雑貨屋の切り抜きを見せても彼女らは知らない。『住んでる人より他所から来る人の方が色んなお店詳しいんだよね』と言われてしまった。
歩きながら渋谷方面へ向かう。ギャルなマキちゃんはとても嬉しそうだ。私もギャルに憧れていたので、本家の渋谷ギャルを一度拝んでこようと、“写るんです″を用意していた。
リエちゃんもマキちゃんも女子校なので好きな人も彼氏もいないと言う。ただファッションの話や音楽の話でとても盛り上がった。
彼女たちから聞く話はどれも新鮮でワクワクした。
リエちゃんは原宿駅からバスで10分くらいのところに住んでいる超都会っ子だ。小学4年生までお父さんの仕事の都合でアメリカに住んでいた。帰国子女だった。
彼女に黒髪を伸ばしている理由を尋ねると、『海外では日本人の黒髪がとても美しいと褒められた、日本人としてのアイデンティティのひとつだ』と言うではないか。
黒髪は自らのアイデンティティだと誇る同級生に初めて出会い驚いた。美容院は同じく原宿か表参道にある“芸能人ご用達″のサロンに通っていた。
しかしそれらはリエちゃんの生活の中ではごく自然な事であり、マキちゃんはギャルだけれども、これまた同じで彼女たちの人生における選択肢がとても多岐に渡ることくらいはすぐに理解した。
都会の、それも都心に住む女子高生。
雑誌のスナップ写真に出てくるような2人。
完全なお登りさんの私は2人の後をついて、周囲をキョロキョロしながら歩いているうちに渋谷に着いた。
小学生の頃に母と来た渋谷とは違う。
夏休み中な事もあり、制服姿の女子高生は少なかったが、地元には居ないタイプの本格的なルーズソックスを履いた同い年くらいの女子高生を見かけて“写るんです″を取り出し、後ろ姿を何枚も撮ってはリエちゃんらに大笑いされた。
『レナちゃん、そんなもの撮ってどうするの?』と聞かれた。
『どうもしないよ!これが渋谷のホンモノのギャルの女子高生だって、友達に見せたり1人で眺めるんだ!』
『ふーん、そっか…今度は学校がある時期に来たらいいよ、死ぬほど街にあふれてるから…』
そっかぁ…リエちゃんたちからすると、渋谷のギャルなんて毎日見てるもんなぁ…
何とも言えない気持ちになったが、東京に来たら会える友達がリエちゃんとマキちゃん、2人も居る。とても嬉しかった。それからもリエちゃんとはずっと文通を続けた。
あっという間に時間は経ち、私は池袋に住む叔母の家に行くため、1人で山手線に乗った。