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ポケットs

社員証

 首に掛けた社員証はどうしても邪魔になり、それは胸ポケットに収まるという自然な流れである。だがしかし!手持ちの服に全て胸ポケットが付いている訳ではなかった。
 既製服が体に馴染まないので... チビで手は短いしフォルムは丸め。
長すぎる着丈をカットしたり、長袖を半袖にリメイクして余った部分で胸ポケットを作っていた。

サマーニット

 名前とは裏腹に夏に着るには暑すぎるこの3着は微妙な時期には重宝している。だがしかし!余り布がないので手持ちの布に絵を書いてポケットを付けた。

 絵心を持ち合わせていないのは大きなトラウマになっていた。たぶん私が兄並みに絵心があれば、母の長男至上主義、跡継ぎ第一主義に揺らぎが生じていたかも知れない。ゴッホ、北斎の凄さや良さはあまりわからないけれど、照れ隠しのスヌーピーを書き足してサクサクっと制作。
 葉祥明さんは絵本作家さんだろうか。高校生の頃、映画を見て憧れていたベッド用の枕を買った時の枕カバーがこんな感じの絵だった。たぶん私の涙を一番知っている枕で、満天の星空、流れ星、わずかな夜明けの気配に希望を感じていた。

 絵を描くことにトラウマ全開の私が、自分で描いた絵を服に縫い付けて出勤する日が来るとは思っても見なかった。背に腹は代えられない。私は自分で思っているよりも逆境に強い。Gの一族の末裔かも知れない。

時給契約社員

 早朝勤務を終えて帰ろうとする私は部長に呼び止められた。
半年毎の契約更新の告知で、スキル認定されると次期の時給が昇給する。今回と次回のスキル認定をクリアすると最高位になるので、私は誰よりも楽しく働いてA+に到達するのを目標にしていた。

 私のように狭い業務範囲を専門に担当する職務だと、均一の評価項目と実務のブレが生じる。そこは面接時に課長が〈それを補えるだけの技量がある〉として認定して通してくれているのだが...、課長はソレをしなかったのである。

 それはだいぶ奇異なことらしく、いつも冷たさすら感じる部長の目が慌てていた。苦情/相談の申告期限を告知し「俺からも課長に話をしておきます」と付け足して話を終えた。

半年

 3日間程、頭の中がざわついていたが思いの外早く落ち着いてきた。次のスキル認定時には私は毅然と自己の要求をするだろう。以前の自分だったら自己の主張を声高にするか、怒りに震えていたかも知れない。

 部長から話はあっただろう課長は、私を避けているのか同じフロアにいる時でさえ話題を持ち出さないのには〈君の職務怠慢ではないかい〉とチラッと思い、信頼関係のバロメーターがだだ下がりしていく割には怒りはない。

 逆に半年後の昇給次期に自分は何をどう感じるようになっているのか少し楽しみである。

ヒルガオ

ヒルガオ

 久しぶりヒルガオを見かけた。思っていた以上に葉っぱが細長く、綺麗な五角形だった。今までの私の中でヒルガオの立ち位置は〈パチもんの朝顔〉という模造品扱いで、自分の好きなものリストに値しないものだった。

 この頃、自分の思考回路を突き詰めていると〈自分の大好きな物〉を決める事を重要だと思っていた。逆を言えば〈次に好きなものを拒絶する作業〉という無意味な事を一生懸命に取り組んでいた。

 この事は思考の癖が無い人にはどうでもいい程度の事と捉えられてしまうのだろう。一番好きなものに固執して、次を受け入れることに抵抗がある、或いは受け入れられるか確信が持てなかった私は、二人目の子供を作ることに抵抗があり、結果息子は一人っ子となった。

 一番好きな物という概念に固執しないと、ヒルガオのドレープの美しさが見えてくる。正しいか正しくないか、ミスがあるのか無いのか、そこに固執しなかった今回は「課長、勘弁してくださいよ」程度の気持ちで乗り越えそうだ。物事の判断基準を自分の中で不明瞭にしていくと自分に甘くなれる。
生きづらさは自分で編み出している。そんな感じをヒルガオを見て思った。

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