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月誕生の謎、解明?

オジさんの科学2019年6月号

 月は不思議な存在です。
 男はオオカミになっちゃうし。かぐや姫は勝手に帰っちゃうし。
 常にウサギがいる側しか見みせない、裏表のある奴だし。
 衛星なのに、冥王星より大きいし。
 見た目の大きさが、太陽と同じだし。
 月って何者?
 地球と月は、親子なのか兄弟なのか、それとも全くの他人なのか。生き物ならば、DNAを調べればはっきりする。でも天体の場合は簡単ではないようです。

 先日、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)らの研究チームが、「月は地球のマグマオーシャンからできた」と発表した。マグマオーシャンとは、岩石がドロドロに溶けたマグマの海のこと。
 このニュースを今月号に取り上げようと思った時、最初に浮かんだタイトルが「月はガムだった」でした。マグマ大使の息子の名前がガムだから。朝ドラの「半分青い」で、マグマ大使を思い出した人も多かったのでは。でも、さすがにガムは知らないと思い諦めました。

 月の起源には、大きく分けて4つの説がある。
まずは、地球の一部がブチッとちぎれて出来たという分裂説。親子説とも言われる。月は、地球の「クローン」だった。
次は、どこか違う場所で生まれた月を、フラフラと通りかかった際に、地球がグイッと重力で捉まえたという捕獲説。他人説とも言う。迷子の月を地球は「養子」にしました。
そして、太陽系ができた時に、仲良くオギャーと生まれたという双子集積説。地球と月は「兄弟」だったということだ。
最後が、原始地球ともう一つの星がブチューとキスした時に、飛び散った物質で出来たというジャイアントインパクト(巨大衝突)説だ。月はふたりの「愛の結晶」でした。

 地球から月がちぎれるためには、相当な遠心力が必要だ。だが、そうすると地球自体がバラバラになってしまうのでクローンはあり得ない。
 アポロ宇宙船が月から直接取ってきた月の石は、地球のマントルと成分がほぼ同じ。元をただせば、同じものではないかと考えられている。どうも他人ではなさそうだ。
 一方で、マントルとはよく似ているものの、何故か重い成分が含まれていない。地球には、鉄を主成分とする大きな核がある。しかし、月の核は小さい。月の平均密度は地球の約6割しかない。一緒に生まれたのなら、もっと構造も似るはずなのに。
 月は、まるで地球の表面に近いマントル部分だけをすくい取って丸めたような天体なのだ。

その他にも、これらの説では説明がつかないことがある。
かつての地球は、ちぎれるほどではないものの、一日4時間という速さで自転していたこと。他の惑星の衛星と比べて、月が大きすぎること。月に揮発性元素の量が少ないことなどだ。
 クローンや養子、兄弟でもなさそう。そこで出てきたのが、ジャイアントインパクトで出来た愛の結晶というアイディアだ。

 約46億年前に、地球の半分ほどの直径を持つ火星くらいの大きさの微惑星が激突した。
 この微惑星には、テイアというギリシャ神話にでてくる女神の名前が付けられている。テイアちゃんのキスから大きな月は生まれたのだ。
 ブチューとされた弾みで、地球は勢いよく回った。熱いキスで揮発成分は飛び散った。

 しかし、この説にも、弱点があった。
 月と地球のマントルの成分が、あまりにも似すぎているという点だ。
 テイアちゃんとのキスの様子は、コンピューターで計算された。すると月の成分の5分の1は地球に由来し、残る5分の4はテイアちゃんからになるはずだと示された。
おやおや、テイアちゃんがどこかに行ってしまいました。これは長年の問題点でした。

 今回、研究チームはこれの答えを見つけた。
地球の状態を、マントルの成分がドロドロに溶けたマグマオーシャンと仮定してシミュレーションを行った。使ったのは理化学研究所のスーパーコンピューター「京」だ。
 様々な衝突角度や衝突速度で計算を行うと、マグマオーシャンがあった場合には原始地球からの成分が多くなることが分かった。
 テイアちゃんがぶつかると、周りに地球のマグマの成分がジェットのように噴き出す。これが円盤のように地球を取り巻く。やがて集まり、月が産声を上げる。

プレスリリースはこう結んでいます。「衝突した側の天体は、最初の衝突からしばらくした後に再び地球に衝突し、そのまま地球と合体します」
ハマちゃんとみち子さんが合体して生まれたのは鯉太郎。原始地球とテイアちゃんが合体して生まれたのが月でした。ドモドモ。

上記はJAMSTECのシミュレーション動画です。
月は地球のマグマオーシャンからできた
https://www.youtube.com/watch?v=waDI4R2MdQ0
こっちもおもしろいよ。
全地球史アトラス 1.地球誕生
https://www.youtube.com/watch?v=bbSdoBAyhZo&t=2s

2019.06.21 や・そね
<参考資料>
プレスリリース
・『月は地球のマグマオーシャンからできた』 
  国⽴研究開発法⼈海洋研究開発機構、国⽴⼤学法⼈神⼾⼤学、国⽴
  研究開発法⼈理化学研究所 2019年5月10日
書籍
・『月のかぐや』 JAXA  新潮社 2009年
・『夜ふかしするほど面白い「月の話」』 寺薗淳也 PHP文庫2018年 
・『月を知る!』 三品隆司 岩崎書店 2017年 
WEB
・Wikipedia『月』
・「月・惑星探査のポータルサイト『月探検情報ステーション』」
ポッドキャスト
・『ヴォイニッチの科学書 第758回』 2019年5月18日

<バックナンバー>
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2月号 夢を操る
3月号 指で潰せる最強生物
4月号 腰痛は愛から
5月号 働くオジさん
6月号 鬼門の先
7月号 ネコはおしゃべり
8月号 世界のタムじいさん
9月号 台風七番勝負
10月号 見えてます
11月号 ヒトの脳は大雑把が得意
12月号 謎解きDNA
2017年
1月号 旧石器時代最先端技術博レポート
2月号 がんばれベテルギウス
3月号 ヒトのカラダは倹約上手
4月号 ボクが鳥を恐がるわけ
5月号 恐竜からヤキトリ
6月号 「ハンバーガー」と「かば焼き」
7月号 将棋と脳
8月号 ナノカーなのだ~
9月号 宇宙の「柿の種」問題
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2月号 インフルエンザは、なぜ流行る?
3月号 おイヌさまさまなのだ。
4月号 ネコの人工血液が出来たんだニャ~。
5月号 ミートテックを愛用する方々にジャストミートする諸研究
6月号  下手は伝染る
7月号 ゆるゆるカガクの用語集「第二の地球」編
8月号 ネッシーの不在証明
9月号 ホップ、ステップ、アワワワワ。
10月号 群れるメリットが「社会」をつくる。
11月号 氷の底に潜む忍者
12月号 隙間の神様
2019年
1月号 新発見!記憶復活薬
2月号 ハダカで足を引っ張るやつ
3月号 氷河期パークのつくり方
4月号 盗まれたノーベル賞
5月号 仕事や勉強をやり続ける「根気」のメカニズムがわかった。
以上


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