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宇宙で一番あたたかな時間

 「宇宙で一番あたたかな時間」    作  りぃり

 世界で一番、いや宇宙で一番、私は母の小寿々が大好きだ。
 どんなに不安な気持ちになっても、母に「大丈夫」と言ってもらえれば、もう何も恐れるものはない。悲しいことがあっても、母がぎゅっと私を抱きしめてくれれば、すぐに元気になれる。優しくて、明るくて、面白い。母は私の太陽だ。

 そんな母が筋痛性脳脊髄炎という不治の病になって、3年がたつ。
 元々体の弱い母だったが、今ではほぼ寝たきり状態になっている。「迷惑かけて、ごめんね」母は繰り返しそう言って私に謝る。私はそのたび「迷惑じゃないよ」と首を振る。
 何も迷惑じゃない。むしろもっと、甘えて欲しい。一番辛く、大変なのは母だ。私は自分にできる精一杯をやっているだけ。本当はもっともっと力になりたい。車を運転することができれば、母の大好きな温泉に連れて行くこともできる。料理が上手くなれば、母が喜ぶご飯を作ってあげられる。
 今の私には、掃除機をかけること、洗濯物を干すこと、オムライスなどの簡単な料理しかできない。

  早く大人になりたい。
そして母を守れるぐらいに、強くなりたい。
母が謝るたびに強くそう思う。

  外出することが困難な母に、私は日々の出来事をよく話した。何気ない友達との会話。給食ででてきた美味しいおかず。空の景色。それを見て、聞いて、自分が思ったこと。
私が話すことに対して、母もさまざまな意見を言う。人間関係の話についてはアドバイスもくれた。私はそんなふうに母と過ごす時間が好きだ。その時間だけはバリアーがはられているみたいに、誰も私と母の間に入ることができない、特別な時間だ。
「ねぇ、どうしてりぃりは母ちゃんのことがそんなに好きなの?」
リビングに寝転がりながら、母が問いかける。
「私には母親が好きという感情が分からない」
天井を見ながら母が言った。私も天井を見つめた。
  母の母、つまり私の祖母はいわゆる毒親だったと聞いている。確かに、祖母は私に母のことをあまり話さなかった。楽しそうに話していたのは、母の兄のことだけだった。私も、祖母のような毒親と呼ばれる人たちが母親だったら、こんなにも好きではなかったかもしれない。この世の誰よりも憎み、嫌っていたかもしれない。

 私は母親が好き。でも、母親だから、好きという訳ではない。母親だから無条件に愛せるわけではないし、無条件に愛さなければならないわけでもない、と思う。

 私は母の目を見つめた。
「私は母じゃなくて、小寿々が好きなんだ。母だからじゃない。一人の人間として、小寿々が好きなんだよ」

  小寿々だから大好き。
抱きつけば、お腹の中にいた頃のような、絶対的な安心感で包み込んでくれる。どんな私の失敗も笑って、次の目標に向かっていくための力に変えてくれる。その笑顔も、香りも、全部全部全部、大好きだ。
「一人の人間として見てくれているのは、母ちゃんも嬉しいな」
 私も嬉しかった。私の本心が少しでも、救いや癒やしになれたのならいいと思う。

 まだ中学一年生の私には、なんの力もない。お金も権力もつかえるものは何もない。だけど、何もない私にも一つだけ誰にも負けないものがある。
それは小寿々を愛していること。
これだけは、どこのどんな人にも負けない。父にも負けない。
 宇宙で一番、私は小寿々が大好きだ。

 それからちょっと時間をおいて、私たちは笑いながらたくさん話をした。こんな風な優しくてあたたかい時間を、この先もずっと続けていきたい。



*****


上記の文は中1の娘が辻仁成さんの文章教室用に書いた課題のエッセイです。
娘に許可をとり載せさせてもらいました。

私にとって宝物のエッセイになりました。
本当に、凄く嬉しかった!です。
泣いちゃった。

私は子供ができない体質。と医師にいわれていたので、ずっと夫と二人で生きていくんだ!親から愛情より怖いや苦痛をもらう方が多く、子供ができても子育てなんてできない。絶対無理。そう思っていました。
でも奇跡的に娘が産まれ顔を一目見たら

「可愛いなぁ!ほんとうに可愛いなぁ!」

と、不安なんてどこかに消え去り
毎日が楽しくあっという間に過ぎていきました。産後の肥立ちも悪く、すぐに仕事復帰を予定していたけれど医師にもダメ!といわれて無理になり、立ちあがることもできなかったので四つん這いで育児をしていました。
そりゃーまぁ~
ボサボサバサバサ酷い状態だったなぁ。

頼れる実家もないので一人育児でしたが
(夫も仕事で忙しく家にあまりいなかった)
とっても幸せな時間でした。
不安になった時話を聞いてくれた友達の先輩ママさんはいたし、
夜中に一緒にオムツを嫌な顔もせず換えてくれた夫がいて、何より
子育てって面白いなぁ!子どもって面白い!!気持ちが大きかった。
家族が増えれば
いろんな問題や悲しい事もありますが
どんなことにも一生懸命に向き合ってきて、
最後には笑える思い出にしてこれたのは
娘のおかげ。
笑っても泣いても怒ったって
すべてが可愛くて愛しい。

娘のおかげで私の人生は優しい色がついたように感じます。
生きてきて良かったな!と思います。
娘と一緒に過ごすことで
「どんな人も子供時代があり、いろんな経験をして大人になったんだ」
そう思うとみんな可愛いな!と
お母さん気分になるようになったし。
両親にも、親というより一人の人間として
受け入れ、育ててくださったことに感謝し、愛情を伝えることができました。

誰か一人から心底愛をいただくことは
生きていく力になるんだな!
娘から学びました。


私の方こそ、いつだって娘と過ごす時間は
宇宙で一番あたたかな時間です。
感謝の気持ちと共に娘に伝えました。

私の事はいいから
自分の好きなこと楽しい事たくさん経験して笑顔でいて欲しいとも言いました。

これからも全力で娘が大好きですし、悩んだときは力になってあげたい。
頼りになる親でいたい!と、うまく動かない身体と頭になっても強く思います。

私はガサツだし、そそっかしいし
素敵な母親にはなれないし!
育児についても語る!こともできないけれど
(子育ては色々で正解はわからないから)
でも娘や子供たちが
笑顔で幸せであってほしいと思うのです。
それには親や大人が幸せだったり
楽しむ姿を自然に見せるのが大切なんじゃないかなぁー!と、わたしは思っています。大人も完璧じゃなくて弱い部分を見せたり。
しっかりと「ありがとう」「ごめんね」「大好き」と伝える事も大事だと思います。(人間関係全てに言えるかも)
娘の周りには面白くてあたたかい
大人がたくさんいるので
本当に有り難いです。
私も病気でかなーりヨボヨボだけど
つらいときはつらいけど
それでも人生を楽しんでいきたいです。

娘にカッコいい!母ちゃん!と
思われたいですからね!!

毎日毎日何度も何度も
「母ちゃん大好き!」
娘が言ってくれる愛のこもった優しい言葉に、私は幸せをたっくさんいただいています。

春休みの今、娘と過ごす時間が春の日差しのように
ぽかぽかあたたかいです。


最後まで読んでいただき
ありがとうございます。

心から感謝の気持ちを込めて。


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