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"人間中心デザイン"に代わる"生命中心デザイン"?: 外コン&デザイン学生の視点

こんにちは。これまでCIIDというデザインスクールで学んだことをまとめる形で、デザインをビジネスのプロセスにどのように落とし込めば良いのか、という論点を述べていきたいと思います。

(CIIDの人間中心デザインプロセス)

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論点が多く、一つの記事にまとめることが難しいので、下記のように複数編で構成しています。この構成の全体像を確認したい方は、前回記事を確認していただければと思います。

・記事1: 人間中心デザインのプロセス別解説: Research Plan -> Research
・記事2: 人間中心デザインのプロセス別解説: Design Challenge -> Concept
・記事3: 人間中心デザインのプロセス別解説: Prototyping -> Funding
・今回: 生命中心デザインを受け入れる必要があるのか
・記事5: スペキュラティブデザインと倫理の役割

前回までの記事では、人間中心デザインのプロセスに関して、デザインスクールで実施されていることと、実際のビジネスで実施されていることを対比しながら、「いかにデザインとビジネスを繋ぐことが難しいか」という論点に主眼を置いて解説してきました。一方で今回の記事では少し色を変えて、「そもそも人間中心デザイン以外の方法はないのか」という論点について解説したいと思います。

特にCIIDではHuman Centered Design(人間中心デザイン)に代わって、Life Centered Design(生命中心デザイン)というものを推奨しています。

上記のWiredの記事には、CIIDの創業者である、Simona Maschiの生命中心デザインに関するインタビュー記事が掲載されています。要約すると…

“これまで人間中心デザインを利用して、多くのプロダクトやサービスが生み出され人々の生活が豊かになった結果、様々な生物を含む地球環境に悪い影響を与えており、SDGsで示されているように一人一々がその行動様式を変える必要がある。人間は車による外出を減らす、プラスティックの利用を減らす、といった「地球環境に良いアクション」をとるべきだが、その多くは人間にとって辛いものになってしまうことが想定される。

生命中心デザインの趣旨は、単純に人間に行動の制約を強いるのではなく、自然と「地球環境に良いアクション」を人間が楽しめるように、プロダクトやサービスをデザインすることである。”

Simona本人も認めている通り綺麗事のように聞こえますが、実は世界では言葉が違うだけで、同じような概念が取り入れられつつあります。個人的にも。将来的に企業は生命中心デザインを取り入れる必要があるだろうと結論しています。今回はこの生命中心デザインという考え方について、以下の論点に基づいて解説していきたいと思います。

・論点1: 生命中心デザインはそもそも何か・有効なのか
・論点2: 生命中心デザインの具体的なプロセスは何か
・論点3: 人間中心デザインが浸透する中、いつ生命中心にシフトすべきか

論点1: 生命中心デザインはそもそも何か・有効なのか

Googleで”生命中心デザイン”と検索しても、大したことは出てきません。というのも、このワード自体CIIDが最近作ったものだからです。とは言っても、世界で流行っていないわけではなく、オランダを中心として欧州では広く受け入れられている概念ではあります。一番近そうな言葉は、サーキュラーエコノミー(循環経済)でしょうか。

具体例に入っていく前に、生命とは何かということですが、ここでは地球上に生息する全ての生物を表しています。人間、動物、昆虫、植物、ウイルスなどの全てで、総じて地球環境と呼ばれているわけです。本質を突けば、地球にとって持続可能と表現している時点で、人間の将来を考えているわけですから、人間中心デザインと捉えることもできます。生命中心デザインで大事なことは、先述したように、単純に人間に行動の制約を強いてより多くの生物にとって持続可能な世界を作り上げることではなく、自然と「地球環境に良いアクション」を人間が楽しめるように、プロダクトやサービスをデザインすることにあります。

そのように「生命中心デザイン」を捉えると、皆さんの周りにも多くの事例が存在するのではないでしょうか。ここではいくつかの事例を紹介したいと思います。

■ 事例1: オランダのサーキュラーエコノミー(循環経済)

上の記事は、あの佐宗邦威さんが創業者である、戦略デザインファームのBiotopeが運営している”BIOTOPE TIDE”の記事になります。非常に分かりやすくオランダのサーキュラーエコノミー(循環経済)事例が解説されているので、是非読んでみてください。

記事の通りなのですが、アムステルダムは、2050年までにサーキュラー・エコノミー・シティへの移行ビジョンを宣言しており、市民の生活に触れられるレベルで構想の具現化・実装が進められています。そこではSimona Maschiが述べているように、単純な環境保全活動ではなく、消費者の生活に入り込み、消費者が自然と「地球環境に良いアクション」を人間が楽しめる、実施できるような取組が進められています。

記事の中で解説されている、”De Ceuvel”は、地域の人々と共に、実生活の中で循環型の暮らしの実験・検証を続けているエリアです。ここには様々なクリエイターが居住しており、サーキュラーエコノミーをtangible(手触り感があり)でaccessible(誰でもアクセス可能で)でfun(楽しい)なものにするための遊び場となっていると書かれています。エリア内のカフェやレジデンスの生ごみはバイオガスと肥料に分解され、このエリア内で活用されているそうです。重要なのは、休日には多くの人が集まっていることで、「人間が無意識的に環境に良いアクションを享受できる」場になっていることは間違いありません。

単体のプロダクトやサービスという形ではありませんが、アムステルダム市民の間で、単なる環境保全活動以外の意識が生まれていることは間違いなさそうです。

■ 事例2: Conscious Hotel(オランダ)

再びオランダにおける事例となってしまいますが、今度はエコホテルの紹介です。エコホテルは日本でも流行しているコンセプトで、地方を中心として建設が進んでいることかと思います。衣・食・住の側面で、自然と循環型の暮らしやライフスタイルを体験することが可能で、今後もその市場規模は伸びていくことが想定されます。

このConscious Hotelもその一例で、”Eco-Sexy. Big Smiles”というコンセプトで運営されています。宿泊者は普通の宿泊を体験しながらも、実は環境に良いアクションを取らされている、という面白いホテルです。例えば…

- Water saving taps and showers and we minimalize our waste
- Solar panels of the roof and the hotels run on Dutch wind power
- Royal Dutch Auping beds, which are also cradle-to-cradle, meaning all materials will be reused later on
- Our linen are organic and our rental bikes are made from recycled old bike frames

宿泊後にこれら事実に気づけば、「ああエコなライフスタイルも悪くなかったな」と感づくことになるのではないでしょうか。

■ 事例3: Furniture as a Service

あのエレン・マッカーサー財団が取り上げているビジネスケースです。Ahrend manufacturesという会社ですが、Furniture as a Serviceを提供しています。家具といっても、生活家具ではなくオフィス家具を専門としており、近年のオフィス家具需要急増(オフィス需要急増)に伴って売上を伸ばしている会社です。

提供しているサービスは非常にシンプルで、解体可能かつ、様々なタイプのオフィス家具で再利用可能な部品(例: 棚に使われていた部品が机の一部になることができる)を提供しています。それにより素材となる木や金属の節約が可能で、ユーザーが使用するだけで、地球環境にとって良いアクションを実現することができます。さらにすぐに解体可能なオフィス家具を提供することで、急激なビジネス環境変化によるオフィスの撤退や移転を簡単に実施することも可能になっています。

オフィス家具の利用において、従来の購入形式であろうと、FAAS形式であろうと、おそらく会社のスタッフは気にしないことでしょう。家具自体のデザインに凝る必要はあると思いますが、誰も気にしないところに目をつけた
良いサービスだと思います。

3つの例を見てきましたが、言葉は違えど、生命中心デザインの考え方は欧州を中心に受け入れられつつあり、単に綺麗事として捉えるのは時期尚早ではないかと思います。

論点2: 生命中心デザインの具体的なプロセスは何か

CIIDは生命中心デザインが大切だと主張している一方で、実はそのデザインプロセスの詳細を体系化できていません。少なくとも2週間のコースでは、体系化しているようには感じられませんでした。現在は、学生が自主的にこの問題を取り上げており、どのようにプロセスを手掛けるべきか、CIIDの講師陣含めて議論が進んでいる最中です。

それでも個人的には人間中心デザインを実践しつつ、そのどこかのステップで生命中心デザインのような考え方を取り込むことは可能だと考えています。取り込むといっても、「デザインするプロダクトやサービスを地球環境にとって良いものにしなくてはならない」という精神ではなく、「人間以外のステークホルダ(動物・植物など)も考え始める」といったレベルです。ちなみにそのステップというのは、リサーチなどが完了した後の、コンセプトを考える段階だと想定しています。

コンセプトを考えるステップでは、コンセプトマップのような形で、想定しているユーザー、利用する場面、ユーザーにどんな価値を提供できるか、どんなインタラクションを実装するか、等を表現しますが、この時点で想定ユーザー以外のステークホルダに対する影響を考え始めることができます。

上の記事では、同様の考え方が掲載されており、少し形式的ではありますが、フレームワーク化もされています。

一方でコンセプトを考えてプロトタイピングする段階では、サービスやプロダクトが成立するかを確認する必要があるので、生命というものにフォーカスしすぎるのは明らかに間違っていると考えます。また考えすぎるのも、プロトタイピングの概念に反しています。「生命中心のデザインを考えつつも、厳しいようであれば通常の人間中心デザインに戻る」くらいの精神が良いのではないか、というのが個人的な仮説です。そしてプロダクトとして成立した段階(投資が決まった段階など)で、もう一度想定ユーザー以外のステークホルダに対する影響を考えれば良いのです。

ただ人間中心デザインが浸透する中、いきなり生命中心デザインに移行するのは簡単なことではありません。理由は単純で、人間中心デザインは人間の課題を対象にし、それを解決することですぐに金銭的なモノに変えることができる一方で、生命中心デザインは生命を対象にしている時点で、デザインに対して金銭を払ってくれる主体が存在しないからです。となると、ある程度金銭的な側面を保証できた時点で、生命中心デザインを考えてみる、というのが理屈に合いそうです。もちろんインパクト投資家のようにこうした取組に投資してくれる主体がいれば話は別ですが。

論点3: 人間中心デザインが浸透する中、いつ生命中心にシフトすれば良いか

前の章の最後で述べたように、ビジネスにこのプロセスをそのまま適用するとなると非常に懐疑的です。特に生命中心デザインは愚か、人間中心デザインの文化が根付いていない日本の大企業の多くでは、生命中心デザインの実行は限られたものになることは間違いないかと思います。

結論として、現在の多くの日本の大企業が生命中心デザインを取り込むことができるのは、プロダクトやサービスがローンチされて軌道に乗った後、再設計やリブランディングをする時ではないか、と考えています。

■ 理由1: デザインの文化がない時点で「ユーザーが自然と地球環境に良いアクションを楽しめるデザイン」を実践しにくい

前の章で解説した通り、生命中心デザインとは言っても、初めから終わりまで人間中心デザインのプロセスが色濃く残ります。つまりデザインの文化がない時点で、生命中心デザインは愚か、そもそもプロダクトやサービスのデザインすらできない・しにくい、というのが現実だと思います。

となると、こうした企業は生命中心デザインを真正面から考えるのではなく、まずは人間中心デザインプロセスを実践してみて、その後余裕があれば生命中心に入っていく、という方が理屈に合いそうです。

■ 理由2: デザインの文化があっても、人間中心デザインの考え方から抜け出すことが難しい

一方で、スタートアップやデジタルプロダクトを手掛ける企業のように、デザインの文化が根付いている企業であっても、新たなサービスやプロダクトを考える際に、いきなり生命中心デザインを手掛けるのは難しいかと思います。というのも、人間中心デザインのプロセスや文化が深く根付いているからです。より多くのユーザーに受け入れられ、投資するに十分なプロダクトやサービスを生み出すことは得意であっても、地球環境を中心にして同じようにマネタイズできるモノをデザインすることは容易ではありません。

では、日本の企業がどのように生命中心デザインを実践すればいいのか、それは先に述べたように「プロダクトやサービスの再設計・リブランディング時」にあるのではないかと考えています。既にサービスとして成り立っているわけですから、安心してプラスアルファを考えることができるはずです。

代表的な再設計の例として、車は取り上げやすいです。トヨタに代表されるように車こそデザインプロダクトの代表例で、人間にとって心地の良い椅子、ハンドル、UI等が実現されています。そして次のステップとして、電気自動車や水素自動車に向かっているわけですが、これは生命中心デザインの一つの形と言えますね。

そして更なる次のステップとして、人々の生活様式を変えるようなデザインも考案されています。上はIDEOのウェブサイトですが、衣食住に係る全てのものを自動でデリバリーしてくれる車、オフィスが車になる未来など、全体として人の移動を集約し、車の数や排気ガス量が自然に減少する未来がデザインされることになりそうです。マネタイズされている車というプロダクトがなかったら、絵空事のように聞こえますが、一つ一つデザインしていけば、現実になりそうです。

今回の記事はこの辺りで終えたいと思いますが、生命中心デザインは今すぐに流行るというよりも、常に誰もが意識して、そのうちに取り入れられるような概念であると認識しています。

町田

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