なぜ営業は紹介を依頼することを避けるのか?紹介依頼で商談発掘を加速する方法
「最良のマーケティングツールは、満足した顧客だ」という言葉があります。実はこの言葉の作者は営業のプロではなく、IBM出身のシステムコンサルタントのジェラルド・ワインバーグ氏。アメリカ初の有人宇宙飛行を実現したマーキュリー計画でシステム開発マネージャーを務めた人です。同氏がコンサルティング人生を振り返って綴った書籍「コンサルタントの秘密」に出てくるのが冒頭の言葉。満足した顧客からの紹介は、どんな業界でも大事なものだということがよくわかります。
今回は、この「紹介」についての興味深い最新データが見つかりましたので、こちらと一緒に既存顧客への紹介の依頼の仕方/ノウハウをまとめてみました。一緒に紹介営業について学んでいきましょう。
より良い営業パイプラインを構築する10の戦略
今回皆さんにお知らせしたいデータが見つかったのは、B2B向けに企業/人事データを収集し提供しているSalesIntel社のブログ「10 B2B Sales Strategies for Building a Better Sales Pipeline」(より良い営業パイプラインを構築する10の戦略)。この記事の中で、より質の高い見込客リストを構築し、それを育成していくための10個の戦略が示されています。ざっとタイトルだけを並べたのが、以下のリストです。
この10個の中でも特に8番目の「紹介を依頼する」に記されていたデータが、非常に興味深かったのです。そのデータとはこちら。
紹介への抵抗がない顧客と、抵抗が強い営業担当者
このように、顧客は紹介というものに抵抗がないどころか紹介を大事な購買チャネルとしているのに対し、積極的に紹介に取り組んでいる営業はごくわずかしかいないというのです。「顧客の91%が紹介に前向き」というのはアメリカの国民性によるところもあるでしょうが、自分が満足している商品/サービスや企業の担当者であれば、確かに私たちも抵抗なく周りに紹介しそうな気がします。
営業担当者が紹介を依頼しない2つの理由
では、なぜ営業担当者は自ら既存顧客に紹介を依頼しようとしないのか。アメリカの営業研修の第一人者であるジェブ・ブラント氏は著書「Fanatical Prospecting」(商談発掘に熱狂しよう)の中で、こう解説しています。
営業研修の第1人者による「紹介を生み出す2つの重要な秘密」
その書籍の中では続けて、「紹介を生み出す重要な秘密」として以下の2項目を挙げています。
本当にこれだけでうまくいのかと疑問をお持ちの方も多いことでしょう。紹介の依頼というと、社会問題にもなったいわゆるネットワークビジネス、マルチレベルマーケティングを想像する方もいらっしゃるでしょう。また、今までに積み重ねた人脈を切り売りするようにして商売している方も世の中にはいますので、その影響もあってなんとなく嫌悪感を抱いている方もいることでしょう。
実際に私自身も以前は紹介をお願いすることに前向きではありませんでした。しかし、プロジェクトの結果に喜んでいるクライアントに「社内で同じような課題で困っている方がいらっしゃったら、ぜひ紹介してください。今思い当たる方はいらっしゃいますか」とお願いしてみたところ、すんなりと紹介してもらえたという経験が何度もあります。
このような「顧客に忘れられない成功体験を提供する」から「紹介を依頼する」ことと、相手の善意やこれまでの関係に付け込もうとするネットワーク/人脈ビジネスは、まったくの別物。自社の商品やサービス、これまでの関係に本当に満足していただけている顧客は、日本企業であっても普通に紹介をしてくれるのではないかと思います。
では、具体的にどのようなフレーズで紹介をお願いしたらいいのでしょうか。
紹介を依頼するフレーズを考える3つのヒント
紹介を依頼するフレーズを考える際の3つのヒントについて、前出のブラント氏と同様にB2B営業のコンサルタントとして有名なマーク・ハンター氏が、「The Referral Machine Formula」(紹介がどんどん舞い込んでくる営業のしくみの作り方)という講演の中で語っていました。
この中で注意が必要なのが3番目の「顧客がメリットを感じられるように語る」。これは紹介手数料とかのインセンティブではありません。一緒に食べた昼食代をおごる程度でOK。顧客が感じている満足を同じような課題に困っている周りの知人にシェアする、というイメージを持ってもらうだけでも十分にメリットを感じてもらえるというのです。
既存顧客に紹介を依頼するフレーズ例
ハンター氏は講演の中で、この3つのヒントに則った依頼のフレーズ例をプロジェクターに投影していました。その場で「みんなどんどん写真を撮ってシェアして」と言ってもらえていますので、以下に2つ「ご紹介」します。
アメリカ的な表現のため日本語にするとかなり大げさに感じますが、いずれも顧客の成果についてだけ語っていて、それを周りの人と分かち合うことを依頼するという構造になっています。実際に満足している顧客であれば、確かに困っている誰かを紹介したくなるフレーズになっているのではないでしょうか。
満足してくれている顧客に紹介を依頼してみよう
私が紹介営業の価値について端的に表現していると思う一節がこちらです。
今回は紹介に関するデータの紹介から始まり、なぜ営業担当者の多くは紹介の依頼に後ろ向きなのかの理由を探り、そして紹介を依頼する具体的なフレーズについてみていきました。ここまでご覧になっていかがでしょうか。「あのお客様なら紹介を依頼できそうだな」という候補が頭の中に出てきていれば嬉しく思います。
最後に、アメリカのB2B営業であれば、まずはランチなどの場で食事しながらお互いのことを理解し、意気投合したら次はオフィスでしっかり会話するというのが普通です。ただ、日本にはそのような慣習があまりないため、いきなりオフィスに招いて商談からスタートするということになり、紹介を行うハードルが高くなってしまいます。
そうではなく、気軽に会うことができてお互いのことを知り合いやすい場として、展示会やセミナーなどの「商談の一歩手前の場」を設け、まずはそちらに来てもらうように依頼するというのも、日本で紹介を成功させる工夫の1つでしょう。紹介してくれた方も交えたリモート面談などもよいと思います。このような工夫をすることで、日本でも紹介による営業を取り入れることは十分に可能だと思っています。
参考:
「10 B2B Sales Strategies for Building a Better Sales Pipeline」(Ariana Shannon, SalesIntel Research, Inc., February 19, 2024)
「The Referral Machine Formula」(Mark Hunter, The Sales Hunter, September 22, 2022)
「Fanatical Prospecting」(Jeb Blount, John Wiley & Sons, Inc., 2015)
「SalesCred」(C. Lee Smith, THiNKaha, 2020)