和英辞典を引く#1
1. 本シリーズの説明
本シリーズ「和英辞典を引く」では、日本語の慣用句を英語ではどのように表すのか、これを和英辞典で調べ記録する。この作業をすることで、日本語の感覚と英語の感覚との共通点や差異を知ることになれば嬉しく思う。また、辞書を引くことは一種の遊びになる、ということ実感したいとも思う。
2. 今回の言葉
★温室育ち
英和辞典を引いてみよう。
・例文の形で示されている。
・「温室育ち」という特定の言い回しがあるというよりは、むしろその意味内容を文全体で表すという態度がうかがえる。
・「温室育ち」の意味要素である「大事に育てられる」という部分は英語的には見られないが、「世の中の苦労を知らないこと」という意味要素は"with little knowledge of the world"の部分で見られる。
他の英和辞典ではどうであろうか。
・名詞句の形で示されている。例文のエントリーはなかった。
・"bring up"を使う点は『ジーニアス和英辞典』(以下G和英と表記)と共通している。
・"in prosperity"はG和英と異なる点である。prosperityは「繁栄」や「成功」を意味する単語である。したがって、示された名詞句を改訳してみれば「豊かな暮らしむきの中で育てられた人」というようになるだろう。
・豊かな時代を築いた人その人は「世の中の苦労を知っている人」であろう。ただその時代に育てられた人は、たしかにその苦労を「知らない人」であるかもしれない。とすれば、この名詞句は「温室育ち」を的確に表現していると言っていいだろうか。
3. 関連語
★箱入り娘
「大事に/大切に育てられた」という点で「温室育ち」と意味が重なる部分がある。ただ、同表現は意味範囲として「娘」に限られる点で「温室育ち」とは異なるようだ。また寵愛度合いとしては、こちらの表現の方が「温室育ち」よりも大きい気がするが、実際はどうなのだろうか。
英和辞典を引いてみよう。
・名詞句の形と例文の形で示されているが、それぞれの形式で表現が異なっている。
・"sheltered"や"well-protected"といった形容詞で「箱入り娘」の意味要素としての「大切にされた/育てられた」を表しているようだ。
他の英和辞典も引いてみる。
・名詞句の形で2通り示されている。
・形容詞"pet"が出てくるのは予想外であった。ただ名詞の"pet"には、「寵児」や「かわいい子」といった意味があることを考えると、「箱入り娘」の語釈に合うとも思える。
・G和英では"sheltered"など「守られた」という形容詞が使われているが、こちらでは「愛されている」を意味する形容詞"beloved"が使われている。それぞれの辞典で「大切にされる」という事態の捉え方に多少の差異があるのかと思われる。
4. 参考文献
清水護・成田成寿『講談社和英辞典』講談社、1976年。
南出康世・中邑光男編主『ジーニアス英和辞典』第3版、大修館書店、2011年。
山田忠雄・柴田武・酒井憲二・倉持保男・山田明雄・上野善道・井島正博・笹原宏之編『新明解国語辞典』第7版、三省堂、2013年。
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