だから仕事はやめられない!
フリーランスを20年近く続けている。若い頃は、デザインやWebの仕事をしているわけだから、例えば、カンヌと言わずともWebのデザインアウォードを受賞するとか、誰もが知り得るようなブランドのWebを作るとか、はたまた、自身の会社を大きく成長させるとか、そんな未来を想像していたかも知れない(正直なところ、当時、何考えていたか覚えてない)。
全然違ったのであった。
僕はこの20年ほどで、フリーランスとして得難い経験をしたなと思っている。ただ、それはモニタに向かって何かを作った経験ではない。むしろ、仕事の副産物というか、仕事をしていたら、たまたま人生で巡り合ってしまった、突拍子もないような経験だ。偶然とも言えるし、必然とも言える。20年の仕事の醍醐味はそうした「得難い経験」との出会いのためにあったと思える。
何を言っているのか。例えば、こんな経験だ。
備前焼の里で、窯焚きに一晩ご一緒したこと
友人が獲った猪を、山梨の廃校で皮を剥いで解体して食べたこと
東大の研究室に福島の除染に取り組む先生に取材したこと
統計数理研で当時ほとんど語られていなかったレジリエンスについて教わったこと
こどもたちが使うChromebookとGoogleのクラウドサービスを、NPOのプロジェクトに導入したこと
日経ホールや横浜市開港記念会館でカメラマンを経験したこと
石巻のハッカソンで地元の高校生とWebサイトを作ったこと
寄居のやきとり屋で、祭りのこれからについて、地域の方にお話をうかがいビールをご馳走になったこと
枚挙に暇がない。今でもそれぞれを克明に覚えている。
モニタに向かってモノを作っているのが悪いと言っているわけではない。それがなかったら、きっと、突拍子もない経験にも巡り合っていない。その上で、記憶に残っている経験というのは、案外、日々の仕事とはずいぶん距離の離れたところにある。
経験に金を使え、という。本当にそうだろうか。
お金をもらって仕事をしていく中で、経験できることに、本当の価値はあるんじゃないかという気がする。
そう考えると、これからの20年にも期待してしまうな。どんな「突拍子もない経験」と遭遇できるだろうか。
だから仕事はやめられない!