湯描き
絵を描いている。趣味とかじゃない。でも人生とかにはしたくない。ださいし、大きく捉えりゃかっこよくなる訳じゃないことを知ってるんだ。人間っていうのはで話始めんな。せっかくの外食が台無…と、荒れた手に止められて気づく。こいつぁ酷い塗りだ。あーあもうやんなっちゃった。休憩がてら彼のいる台所に目を遣る。彼は料理人らしい。でもスパゲッティ以外作ってるのを見た事がない。なんで2人で暮らしてるのに1人みたいな食事しなきゃならないんだ、みたいな憤りはもうない。大人になったのかなあ。
麺を茹でている。将来パスタ屋を開くために、メニュー開発は早いうちから隙を見てやっておかないと。あまり遠い将来にしたくないので、なんか結局ほぼ毎日パスタ食べてることになる。その代わりと言ってはなんだが、彼女が飽きないためにソース自体は変えているんだ。さらにソースによって作るのに得意不得意があるから、ただ違うパスタ食べるより、次元の多い多様性の中のパスタ生活だ。ジェノベーゼなんか絶品だ。彼女がいつも褒めてくれる。そういえば、ずっとテレビついてるのに気にならないのかな。嫌なニュースだ。
あれだ。あのスパゲッティ、美味しいんだ。おまけに名前がかっこよすぎる。でも忘れちゃった、あんなに好きなのに。大人になりすぎたのかも。え。ああ、テレビついてたんだ。うわ、とんでんじゃん。大人になる前なのにさ。想像つかないけど、一歩変わってたらあの子も私も同じだったんだろうか。啜る。美味かった。
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