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「実は」で始まる自分史 その2

これは、私と長い付き合いのある人だったら知っている話ではあるが、最近知り合った人にはめったに言わない(というかすっかり忘れていた)話。

実は、私は10年ほど前まで「赤面症」だった。社会不安障害とも言うらしい。それを自覚したのは中学生のころ。

中学校で図書副委員長だった私は、委員長代理で委員長会議に出たことがあった。そこで発言している私の様子をじっと見ていたある他の委員長の男の子が大きな声で「おい、おまえ、また赤くなってるぜ!」と冷やかしてきた。

今にして思えば、その子は私のことを好きだったのかもしれない。そう思えるぐらい、嫌がらせというよりは愛情表現に近い冷やかしだったが、私にとっては、恐怖の始まりだった。

その後、汗だくになり、何も言えずに固まってしまったのを、未だに覚えている。

それまで人前で話すことが苦手である自覚はなかったのだが、それ以来、顔が赤くなるのを恐れ、極度に緊張するのを自覚するようになった。それでも、大学生ぐらいまでは人前でスピーチをする機会というのは案外少ない。自分がそれを苦手としている自覚が浅いまま就職活動を迎えた際、ここで再度、自分が赤面症であることを思い知らされることになる。

グループディスカッションや、集団面接、面接官との対峙。毎回つまづいた。とにかく、自分をよく見せようとして悪循環にはまっていった。

それでも何とか乗り越え、社会人になった後、なぜか、大勢の前でスピーチするような仕事が多く回ってくることになる。毎回、頭痛に襲われ裏でよく吐いていた。多分、息ができていなくて酸欠だったんだと思う。

そんな状態で、その仕事をよく続けられていたとか、周りもそんな私によく仕事を任せていたものだと不思議に思うかもしれないが、私自身、人前に立つこと自体を実は望んでいた。

極度に緊張して、(実際は赤面していたのかわからないが)赤面が恥ずかしくて、格好悪い自分を見せたくない一方で、伝えたいことが自分にはあった。だから、逃げ出したくなかった。

社会人5年目ぐらいには、そこそこ想定の範囲内だったら何とかごまかせるようにはなり、どうにかやり過ぎしてきた。

しかし、その後、私にとって大きな試練を迎えることになる。

それは、ある一大プロジェクトの責任者を担うことになり、数百人の前でプレゼンをしなければならなかったこと。プロジェクトは周りの多大なるフォローにより成功したものの、この時の自分に対する絶望は表現することができない。

夜な夜な、そのことを思い出してのたうち回った。自分が恥ずかし過ぎて死にそうだった。チャンスを与えてくれた会社に対して、筋違いにも逆恨みした。

結局、その絶望が消えずにその会社は辞めることになる。

今思うと、全て不思議に思えるほどの絶望感なのだが、結局この経験が赤面症を治す一歩につながったのは間違いなかったと思う。

転機は、転職先で出会った20歳も年の離れた上司との出会いだった。

ある日、連日かけて苦労して生み出した仕事が上司にも顧客にも認められ、疲れと達成感で完全に放心していた私に上司が声をかけてきた。

「なぜ、おまえはそんなに自信がないんだ?」

「親に認められてこなかったからでしょうね」

突然の質問にも関わらず、何も考えずに即答している自分がいた。

薄々気づいていた。でも口に出したことはなかった。母とは物心ついたときから折り合いが悪かったが、だからと言ってそれが自分に何か影響を与えているだなんて思いもしなかった。

そもそも、母のことを考えることが嫌だった。だから、極力、自分の中でその話題にならないよう注意をはらってきたつもりだった。

しかし、その日はなぜか違った。次々と、根本の問題は母との関係性にあると自分の全意識がそこに向かった。自分なりにここに決着をつけない限り、私は自分の思い描く自分にはなれない。

不思議なもので、自覚をしたらあっというまで、そこから半年の間に、母との関係性に変化をもたらす出来事が何度も起こった。自分の人生をも変える出来事だった。

何であんなに恨んでいたんだろう
何であんなに自信がなかったんだろう
何であんなに何かにとらわれていたんだろう

今となっては、全部、キレイさっぱり忘れてしまいどうにも思い出せない。

そして、全て忘れいった記憶とともに、自分が赤面症だったこともいつの間にか忘れていた。そんなものだった。どこがどうつながっていたのか説明がつかないが、いつも私の心を重くしていたところに目を向けることができたとき、体からのSOSが消え去っていった。あんなに長い間苦しめられていたのに。あっけないものだ。

「赤面症」って言葉を発するだけで、今でも少し心がチクりとする。それぐらい、私と共に歩んできたもの。

そんな自分の愛する過去。

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