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ホラー小説のネタバレなし読書感想『歪つ火』三浦晴海
処女作『屍介護』に続き、こちらも三浦晴海さんの得意とされているジャンル、*ソリッド・シチュエーションです。
同作者さんの『走る凶気が私を殺りにくる』も、車内という限定された環境での出来事なのである意味、ソリッド・シチュエーションかもしれません。
三浦晴海さんは、「介護」「煽り運転」「女性のソロキャンプ問題」など、時事ネタをテーマにした、ホラー作品を手掛けています。
今作は、「生きることの醜さ」もテーマにしているといえるでしょう。
会社をズル休みして、ソロキャンプに出かけた女性。
そこで会った、見ず知らずのひとたちとの、束の間の憩いのとき。
温められた心が、真実を知ったとき、それでも生きることを選択した主人公は、残酷な選択を迫られる……。
結末まで読むと、主人公の選択が、倫理的にも胸にせまります。
そこまで持っていくためにも、今作は会話シーンが多く、読みやすい作品でした。
「屍介護」のレビューに「読みにくかった」とおっしゃる方々がいましたが、作者さんのリーダビリティ(読みやすい文章伝達力)は格段に上がっています。
いななき森林キャンプ場の“情景描写”は、そこで会った人たちの生活する様を鮮やかに描きながら、会話シーンの多い“心理描写”で、異常事態による不穏さを徐々に盛り上げていっています。
ホラーですが、正確にジャンル分けすると、それ自体がネタバレになってしまうので、そこは控えておきます。
ほかの小説もそうですが、予備知識なしで読むのが一番ドキドキします(この感想は、ネタバレについてあまり書いていませんが、読み進める上で、重要なポイントは押さえているつもりです)。
不穏さのなかに郷愁のような温もりがありますが、逆にその温もりこそが、恐怖を盛り上げていくのに一役買っていますね。
今作は、『屍介護』以上の群像劇になっています。
会社をズル休みして、水瀬友美(みなせ ともみ)が向かった、いななき森林キャンプ場には、単身者や家族などのキャンパーたちがいました。
彼らとの交流が、本作のメインとなるお芝居です。
水瀬友美は、なぜ会社をズル休みしなければならなかったのか……
ほかのキャンパーたちとの交流のなかで起きる、不思議なできごとの正体とは……
それらが明らかにされたとき、主人公には倫理的にゆさぶられる“何か”が待ち受けています。
彼女を赦せるのか、それとも赦せないのか……
そのジャッジは、最後までお読みくださり、ご判断ください。
*ソリッド・シチュエーション・スリラーなどとも呼ばれる、舞台設定が限定された空間で、追い詰められた登場人物たちが試行錯誤するような作品を指すジャンル。