見出し画像

「愛の妙薬」考

ドニゼッティのオペラ
「愛の妙薬("L'Elisir d'amore)」、
このオペラは
イタリアの伝統芸能
「コメディア・デラルテ」を元に
キャラクター設定がなされている。

したがって、
オペラの登場人物には
それぞれの役に対応する
コメディア・デラルテの役が存在する。

「アディーナ」――――― コロンビーナ
「ネモリーノ」――――― ザンニを原型とした
             インナモラートとプルチネッラの複合
「ベルコーレ」――――― イル・カピターノ
「ジャンネッタ」―――― シニョーラ
「ドゥルカマーラ」――― イル・ドットーレ

・・・ということは、
コメディア・デラルテにおける
上記キャラクターの役割を調べることで、
ドニゼッティ、
・・・というより
台本作家のフェニーチェ・ロマーニが、
このオペラにおいて
それぞれのキャストに
どのような演技を求めていたのか、
伺い知ることが可能となる。


ネモリーノの役柄設定として
台本に記されている
"giovane semplice"は、
そのまま日本語として訳すならば
「純朴な若者」。

だが、これだけでは
どのようにして純朴さを出すのか
はっきりせず、
役作りの指針としては
はなはだ不完全だ。

私が見たいくつかの舞台では
「わんぱく坊主」的な若者を
一生懸命演じているものや、
「都会に出てきたものの馴染めず
 人淋しくなっている田舎者」
風の若者を演じているものなど、
様々なタイプのネモリーノがあった。

それはそれで一解釈としては面白いが、
違和感を感じていたのも事実。

ところが、ここに
コメディア・デラルテのキャラである
「インナモラート」を投影するならば、
「生まれて初めて恋をした子供」
という性格設定が浮き彫りにされ、
役作りに方向性を与えることになる。

1959年、イタリア歌劇団公演において
ネモリーノを演じたタリアヴィーニは、
明確に「赤ん坊のしぐさ」を
演技の中に混ぜ込んでおり、
ネモリーノの中にある
「恋を知る(=大人になる)前の幼さ」
というキャラを描き出していた。

ネモリーノに必要なのは、
「内面的な心の素直さ」ではなく
「きわめて外面的、寓意的な幼さ」
なのであろう。

ネモリーノに焦点をあてるならば
この「愛の妙薬」というオペラは
「純朴な男が純情ゆえに愛を得る」
という話ではなく
「幼き子が大人に成長する物語」
ということになる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?