「生肉を喰う」
ここ一番、
エネルギーの注入を必要とするとき、
私は近所の精肉店に行く。
牛たたき用の赤身肉を500g、
これを塊のまま購入。
途中、八百屋に寄って
ルーコラを2束と、レモンを2個。
大蒜とオリーブオイルは
家に常備してある。
大蒜の皮を剥き、
ぶつ切りにした肉と一緒に
フードカッターに入れる。
新鮮な牛赤身肉の塊から
赤身のミンチを作るのだ。
細かく挽かなくてもいい
ごろごろした塊が残っていても、
それはそれで趣があるというもの。
中ボウルに半分ほどの
赤褐色のミンチが出来上がる。
その中に刻んだルーコラを入れ、
塩をほんの一振り、
そして2個分のレモン果汁と、
ほぼ同量のオリーブオイルをふりかける。
レモンによって色がさっと変わる肉、
エクストラバージンのオイルにまみれ、
ぬめぬめと光る肉、
エロチックでさえある。
好みによって
ブラックペッパーを少し振るのだが、
そんな小細工はいらない。
ちゃちなレストランならば、
生卵を真中に落すところだろうが、
そんな甘ったるいことができるか!
レモンの酸味とオリーブオイルのコク、
それにルーコラの青臭さがあれば十分だ。
なぜなら、
これは肉料理である以上に
「サラダ」なのだから。
生肉を欲する時、
それは、
自分が肉体的にも精神的にも
「Diminuito」していて、
その状態からの脱却を強く希求する時。
土を噛んででも立ち上がる、
そのためのエネルギーを
内から熾そうとする時。
そんな時は、
もはや火を通した肉なんて食べられない。
上品に気取った料理なんて、
気を萎えさせるだけだ。
だから喰う。
その獣のありように最も近い、
生の肉を。
大地を踏みしめる四本の脚と
その上に乗った雄雄しい巨体・・・
その獣が本来持っている
エネルギーを取り込むために。
文字どおり、
「命」を糧とするために。