「愛の妙薬」考 04
バレエの演目の中に
「La fille mal gardée」
という作品があるのを御存知だろうか?
「リーズの結婚」
と邦題されるこの作品は、
フランス革命の狼煙となった
バスティーヌ監獄襲撃の2週間前、
1789年7月1日に初演され、
「バレエ史上初めて
民衆の生活を描いた作品」
として今に名を知られている。
当初、この作品では
民謡や流行り歌などを
踊りの音楽として用いていたが、
1828年以降、
パリ・オペラ座付きの作曲家
フェルディナン・エロールによって
大幅な改編がなされ、
ロッシーニの「セビリアの理髪師」や
「チェネレントラ」など、
当時大流行していたオペラの曲が
要所要所に取り入れられてきた。
そして1832年、
ドニゼッティのオペラ
「愛の妙薬」が初演されると、
当代のダンサー、エルスラーは
「リーズの結婚」のパ・ド・ドゥの音楽として
この「愛の妙薬」を流用する。
おそらくは、
このバレエ作品に登場するヒロイン、
リーズのイメージに合うものとして、
「愛の妙薬」が用いられたのだろう。
これを逆に活用するならば、
このバレエ作品「リーズの結婚」は
オペラ「愛の妙薬」のヒロインである
アディーナのイメージ、
特に、初演当時、
ヨーロッパで受け入れられた
アディーナのイメージを
視覚的に把握するための
とても優れた参考資料となり得る。
また、この作品では
18世紀末~19世紀の農村の生活が
細かく描かれているため、
当時の人々の暮らしや風俗、
村祭りの様子なども
同時に窺い知る事ができる。
※ ※ ※ ※ ※
歌手を含めた演奏家たちが
「演奏・音楽の専門家」
と呼称するのであれば、
バレエのダンサーは
「舞踊・ヴィジュアルの専門家」
と呼べるだろう。
彼らは物語を声や言葉ではなく
「踊り」と「マイム」で表現する。
しかし、
クラシックのダンサーが
音楽を無視しては
成り立たないのと同様、
オペラの歌い手も
「踊り・マイム=演技」
を無視することはできない。
その意味において、
バレエ作品を観ることは、
「総合舞台芸術」という
同一のステージに立つオペラ歌手にとって
必要かつ重要なことではないかと思う。
・・・バレエに限った話ではないけどね・・・