「化粧」
顔を洗う
化粧前のベースを塗る
ファウンデーションを
薄く均一に塗っていく
素の顔に
別の色が入り
やがてそれは
顔全体を覆っていく
素の自分は
化粧と共に徐々に姿を消し
自分ではない
だが他の誰でもない
得体の知れない
「何か」へと変容する
それはなにか
「無」にも似たもの
不思議な
しかし、
どこか荘厳な時間。
己を消し
「舞台」という世界と
合一を行ってゆく
それは儀式。
・・・やがて
なにもない
「無」の下地の上に
鼻の影が
頬の陰影が
浮かび上がってくる
スポンジによって
あるいは筆によって
眼が、
眉が、
口元が、
肌に筆が触れるたび
少しずつ、少しずつ
描き出されてくる。
この世界で
己に与えられた「役」
その個性が
少しづつ、少しづつ
作られていく。
ゆっくりと
ゆっくりと
変身してゆく「私」
思考も
性格も
「私」の全てが
舞台の上の「役」へと
変わっていくのだ。
まるで
いちど死んで無に還り
そこからまた
新たな生を受けるがごとく
化粧
それは
役者が役になりきるための
大切な時間。
役者の中に
何かが降りてくるための
大切な儀式。