下請け宅配業という奴隷制度③
【配達の困難と非効率】
AM8:40。荷物を積み終えた僕は、車を営業所の端に移動させた。持ち出し荷物は40件、メール便は13件。伝票とメール便を、住所別に分ける。よりによって一番遠い地区に午前中指定の荷物がある。仕方がないので、その荷物を一番に訪問し、手前に戻るようにルートを設定した。
時間帯指定をしているのに在宅していないというのはよくある話だ。一番遠い家でその状況に陥ったのは厳しい。イライラしたところで客が帰宅するわけでもないので、不在票を機械から出力してポストに投函し、次の配達先へ向かう。午前中予定していた配達を終え、営業所に向かっていたところで電話が鳴った。時間は12:30。不在票を入れた家からだ。
「申し訳ありませんが、14:30以降の配達になるんですが」と僕は答えた。
「すぐに来てもらわないと困るんだけどね。午前中に来ないそちらが悪いんじゃないの?」
不在票があるということが、午前に訪問しているという証明になっていることも理解していないのだろうか。
「商品は、お子さん用の衣装ケースですよ。すぐに必要ないのでは…」
「必要かどうかは、そちらが決めることじゃないでしょ!今すぐ持ってきて!」
これ以上話をしてもクレームになる確率を上げるだけなので、仕方なく戻ることにした。
【営業所でのトラブルと理不尽な対応】
PM13:55。営業所に戻ると、2便目の荷物を乗せたトラックが荷下ろしを始めていた。普通なら13:30には戻り、荷物の整理をして待ち構えているのが僕の日課だ。しかし、「すぐ持って来い」というお客に時間を削られた僕はギリギリに入ることになった。
「〇〇君、何してたの!早く帰ってくれないと困るんだけどね!」
いつも搾取できる労働力がいないことに腹を立てたのか、大手社員が悪態をついてくる。
「すぐに入りますので」
自分の担当するエリアの場所に車をつけ、急いで荷捌きに参加する。荷物は、大手社員が自分のエリアの荷物を寄り分けたあとに、下請けに残りの荷物を回すという形式だ。カゴの荷物を整理していると、大手社員の荷物が出てきた。
「すみませーん。〇◇町の荷物が混じってるんですけどー。取りに来て貰えますー」
「そっちが持ってくるのが筋だろー。下請けが取る前に分けてやってるんだぞ!」
「じゃあ置いときますねー」
というと、逃げ出すように自分の荷物を車に積み込み、営業所を後にした。後ろで、何か叫んでいるドライバーが見えた気がしたが、気のせいだろう。ざまーない。ほんの小さな仕返しだけど、スッキリした気分になった。
【帰宅と売上の現実】
PM18:30。夜間指定の荷物がないため、今日は早く営業所に戻れた。車を降りたと同時に、「荷物押し付け」上長に声をかけられる。
「うちの社員を馬鹿にしたらしいね?」
昼にあったことを説明し、理解を求める。
「それは協力しない君が悪いよ。事を大きくしたくないなら、謝ってきなさい」
これ以上反抗しても無駄だし、うちの社長にも迷惑をかけたくない。悪いとも思っていないが、昼にもめた社員に頭を下げた。その後、不在で配達できなかった荷物を降ろし、代引きの入金を済ませて帰社した。
【現実と将来の展望】
PM19:00。洗車を終えた僕は、事務所に入り、本日の売上を計算する。宅配:64個、140円×64個=8960円、メール便:30円×24個=720円、合計9680円。この売上から、車にかかる費用、ローンに維持費、車両の保険、社会保険、事務所の家賃や事務員の費用、作業着やボールペンといった雑費を引き、その残りから自分の給料が出る。12時間働いてこの売上だと、完全な赤字だ。
僕はこんな生活を2年続けた。何度も値上げ交渉もしたし、待遇の改善も直訴した。しかし、状況は一時的に改善されることがあっても、根本的な解決には至らなかった。
例えば、値段交渉ひとつにしても、値上げに成功した次の月には、他の業者が値下げをして価格を元に戻してしまう。案の定、値下げをした業者も苦しくなり、誰も手を出さなくなってしまう。一時、ひとつ180円まで単価が上がったこともあった。それでも、80件近くこなさないと収支は合わなかった。
昼は菓子パン一つに、どこのメーカーか分からない謎コーヒーを飲み、夜は帰って食事を作る気力すらないので、6枚100円のパンを2枚飲み込んで終わる。週に3日はそんなことをしていた。
その当時の僕の月収は18万円だった。それでも赤字が出ていたのは知っていた。なので、社長と相談して、宅配下請けを撤退した。今でも、他の下請け業者が苦しさを社員に押し付けて運営している。そこへ勤めるじいちゃんが、
「70前からコンビニ勤めなんて、出来るわけないよ。給料安くても、使って貰えるだけ感謝してる」
という言葉を聞くと、大手業者はまだまだ搾取が続けられると思うのだろうか?
【改善策の提案】
今から書くことが正解かどうかは分からない。絵空事かもしれないけど、僕の意見を書いてみる。
1. 希望する家には、公費で宅配ボックスを設置する。
- 100%宅配業者の負担軽減につながるのが宅配ボックスだ。再配達の数が圧倒的に減る。これだけでドライバーの拘束時間がかなり減る。
2. 再配達にも、元請業者は運賃を支払う。
- 故意に不在を装って、再配達料金を取ろうとする業者が現れる可能性が高いので導入が難しいとは思う。しかし遠方に3回も4回も通うにも関わらず運賃は1つ分という矛盾を解消するために必要だと思う。
3. 時間帯指定に不在だった場合、追加料金を取る。その料金を請負会社にも反映する。
- 根本的な問題を言えば、宅配業者は舐められている。社会的地位が低いために、客に無理強いを要求される。なので、自分の財布が痛むという前提が立てば、指定時間も守って貰えると考える。
4. メール便を一社独占状態にして、公共事業扱いにする。
- 一番物議のある提案だと思う。クロネコがメール便を郵政に委託を進めた際には、多くのクロネコメイト(メール専門の配達員)から批判が噴出した。というのも、メール便は集約すると事業として成立する。収益性が高いということは公共化も容易だ。それにより宅配業者の負担が軽減するのなら、一石二鳥な提案といえる。
もしこの4つの案が実現すれば、宅配業界の現場も少しは楽になると思う。