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UかWかうずまきか。

歯こそがイイ男の条件だ、とアドバイスされたエピソードを書きながら、1999年の夏にシアトルで受けた研修について思いを馳せていた。

それは、日本語教師としてアメリカの各州に派遣されるための事前研修。
しかし、その研修の内容は、日本語を教えるため「だけ」でなかった。むしろ自分自身が異文化に身を置き、働くようになったとき、非常に有益だった。

その後大学院生として暮らしたときも、イギリスに転勤した後も、なんども思い出すことになった。

今思い返せば、主催としては、異文化への関心がある日本語学習者を理解するため、でもあるが、それよりも、異文化のなかへぽーんと派遣される教師自身が、新しい環境に葛藤や煩悶することを含みおいていたのだろう。

その適応の過程をあらかじめ客観的に学習しておくことで、少しでもそんなチャレンジに対応できるように配慮があったに違いない。

いまになれば、よくわかる。

私のnoteのタグはたいてい「#イギリス生活」「#海外で働く」「#ロンドン暮らし」「#海外MBA」という感じ。
なので、結果としておすすめに流れてくる投稿も、海外にいきたいと願う人や、最近海外に引っ越した人、長年海外に暮らす人の記事が多い。

新たなチャプターにわくわくしているひと。
順応ができなくて悩んでいるひと。
まいにちが楽しくって仕方がないひと。
経済的な壁にぶつかっているひと。
文化的な壁にぶつかっているひと。
思いがけぬ親切に嬉しくなったひと。
異なる価値観にびっくりとまどっているひと。

幸せ・不幸せ、高揚・不満…さまざまだ。

シアトルで学んだことを少し振り返りながら、「異文化適応」とはどういったものなのかを、ここでちょっと考えてみたいと思う。

にんげんが、新しい環境におかれるようになると、まずはその新しい環境へ適応しようとする。
カナダの心理学者ベリーは、この「異文化適応」の態度を4つに分けた。

分離:これまでの自分の文化に閉じこもる。新しい文化との接触を意図的に避けていく。

統合:新しい異文化と、これまでの自分の文化をバランスよくあわせ持つ。以前の文化を維持しつつ新しい文化も取り入れていく。

同化:新しく出会った異文化との環境が良好であり肯定的であり、その文化に同化していく。これまでの自分の文化を捨て、新しい環境に適応する。

周辺化:これまでの文化の維持もせず、しかし新しい文化とも距離を置いて無関心。

the concept of acculturation Berry (1989)

では、この4つのうち、誰がいちばんストレスなく異文化で暮らしているか。

研究当初は、「同化」、つまり「郷に入りては郷に従え」と、新しい環境に従い現地人のように生活するひとこそ、幸せだと考えられてきた。

しかし、研究が進むにつれそれは改められる。

実はいちばん適応ストレスが低く幸福に生活しているのは、「統合」、つまり移住先と母国の文化の双方を受け入れる移住者だと示されたのだ。

周囲のやり方や起きていることにすべて染まる必要なんてないし、自分が快適なところをバランスよく「いいとこどり」していいよ、ということ。

それができるとストレスが一番低い。そしてその状況こそが「適応」だと。

では、この「いいとこどり」になっていくプロセスはどういったものなのか。

それを研究したのが「Uカーブ」と「Wカーブ」だ。

Uカーブ

ノルウェーの社会学者リスガード(S.Lysgaard 1955)が提唱したUカーブ仮設(U-Curve Hypothesis)は、一般的な「異文化適応」は4つのステップに分類されるとした。

1.ハネムーン期:新しい文化の中に入った直後で、気分が高揚している。異文化に魅了され、見るもの、聞くものがすべて素晴らしくバラ色に見える時期。
ずーっと行きたかった海外にとうとうやってきた!
私やったじゃん。うわー、建物が違う。食べ物が違う。
すごい、すごい。

2.ショック期:やがて新しい環境に慣れてくると、だんだんと現実的な問題に直面し、また文化的な衝突が増える。ややもすると、異文化に対する敵対心や攻撃的な気持ちを抱く。このUの底にあたるのがショック期。いわゆる「カルチャー・ショック」の期間。
え、この国ってみんなシャワーしか使わないの?寒くなって来たのに、お風呂くらい入りたい。
どうして約束をドタキャンして平気なわけ?これってホントに友達?
ガイジンってみんなこんな風なの?おかしいな、こんなはずだったっけ。

3.回復期:そのショック期で異文化を離れず、乗り越えたとき、迎えるのが回復期。新しい文化、異文化に慣れはじめる期間。
まあさ、みんな自分のペースや考え方があるもんね。
割り切ってみたら、そんなにここも悪い場所じゃないじゃん。

4.安定期:そして現地の文化や環境に対し現実的な理解度を持ちつつ、受け入れて順応する期間。
そうか、シャワーしか浴びないのは、平地ばかりできれいな水へのアクセスが歴史的になかったから仕方ないのか。考えたら日本みたいに夏も湿気で汗だくになることって少ないもんな。
そういうもんなのね。
まあ、でも私はお風呂に入りたいからお湯貯めて入るけどさ。

Wカーブ

そしてこのUカーブを乗り越えて、異文化体験乗り越えたぜと思って凱旋帰国をしたときに体験するのが、「自国の文化に対する違和感」、そう逆カルチャー・ショックだ。

そこまで勘案したものが「Wカーブ」。
ガラホーンら(Gullahorn 1963)がリスガードの説を発展させたものだ。

あっちに比べて日本って、あーだし、こーだし。
なんでこんなに違うわけ。
あーあ、あっちはよかったなあ。

それはそれで幸せな状況ではない。

つまり、「異文化適応の過程には、アップダウンはあたりまえ」ということ。

うわーと気持ちが高揚し、そして幻滅するのはどんな新環境に関しても起こることなのだ。

それは恋愛と似たようなもの。
ガーッと燃えた恋が、長時間続く愛に熟成するにはアップダウンが当たり前、というのに似ている。

そうあらかじめ覚悟しておくと、自分をときどき客観視できる。
「あ、今ショック期だもん、しょうがないよね」
そう割り切って、回復期がやってくるのを待てばいい。やがて安定していくもんなんだからと。

そして、帰国や、プロジェクトの終了や、留学期間完了で、自分がいた環境に戻った時も
「そりゃあ、あっちで自分が少し変わったんだもの、またショックがくるのは仕方ないよね」
と思っておける。

螺旋

韓国のコミュニケーション学者キムは、その「ああもう無理!」というストレスと「やっぱり楽しい、大丈夫いける」という「異文化適応」の過程は、ぐるぐると時間の経過とともに小さくなる螺旋によって表されるとした。

The stress adaptation growth cycle (Kim, Citation2001).


ここで自分自身の経験をふりかえると、私のこれまで通り過ぎた適応過程はこれらを取り混ぜた感じ。
そう、新体操のリボン型だったように思う。

ハネムーン、ショック、回復、安定期を繰り返しながら、そのアップダウンの振り幅がだんだんと小さくなって、そのうちほとんどなくなっていく、というイメージだ。
そしてできあがった私は、東も西も両方とも「いいところも悪いところもあるよね」と割り切った統合型。

考えてみたら物理でよくある振り子の運動が左右均等に揺れ動き、やがてだんだんとおさまっていくようなもの。

なぜかというと、いろんな環境に行く経験を繰り返すうち「あ、これ前にもあったショックだし、いつかおさまるの知ってるや」と、衝撃度合いが下がっていくから。

と、いいつつも。

そう割り切れたと思っていた自分でも、この夏の「15年ぶりの日本で働く体験」はいろいろなショックを呼んだ。

「あちらでは」「海外だったら」「これは違う」などと発言するのは良くないと充分わかっていたから、できるだけ彼らの懐に入り込んで、わかりやすく説明し、よい方向に貢献したいなと頑張ったけれど。
そしてそれは非常にポジティブに受け取られ、引き続きサポートしてくれとはいわれたのだけれど。

そこに踏み込めば踏み込むほど、私自身の気持ちと目線は、むしろあまりに深すぎる溝の方に目がいってしまった。

最近は、慌てて、「メンバーシップ型とジョブ型」といった人事採用管理方法について読み始めたりしている。

やっぱり、別の考え方や行動規範の環境に入っていく…ということは、それがたとえ自分の出身国の文化であっても、もし未経験の環境ならば「異文化」なのだ。
そして、ショックや回復を重ね「異文化適応」のステップを経て理解していくものなのだ。

と、身をもって感じる今日この頃である。

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ころのすけ
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