イギリスあるある‐その4
そういえばこれも。ああ、こっちもだと次々浮かんでくるイギリスあるある。
今回はヒトや文化について。
そもそもイギリスってなに?
UKなのかGBなのか
家を買ったときの話にも書いたけれど、「イギリス」という日本語は厳密に英語に訳しづらい。
私が今暮らしている国の主権国家としての正式名称は「グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国」である。英語でいえばUnited Kingdom of Great Britain and Northern Ireland。連合した王国を構成しているのがイングランド、スコットランド、ウェールズと北アイルランドという4つの「国(country)」。
最初の「連合王国」の部分を略すとUKだが、ISOコードではGBと示される。
グレートブリテンというのはあの二等辺三角形をした島の名前であり、そこにイングランドとウェールズそしてスコットランドがある。
その西側にあるアイルランド島には1937年にイギリスから独立したアイルランド共和国(つまりUKとは別の主権国家)と、イギリスの一部である「国」のひとつ北アイルランドがある。
よって、「グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国」の政府が自分の国すべてを示したいときにはUKと呼ぶ。
イギリスの国旗はかの有名なユニオンジャック。それは白に赤十字の聖ジョージ(イングランドの守護聖人)旗、青に白斜め十字の聖アンドリュー(スコットランドの守護聖人)旗、そして白に赤斜め十字の聖パトリック(北アイルランドの守護聖人)旗を重ねたもの。
あれ、4つ目の国ウェールズの旗は?
そう。ウェールズの国旗はネギの白と緑に赤い竜。しかし歴史の早い段階でイングランドに併合されてしまったため、含んですらもらえなかったのだ。
イギリスってイングランドじゃないの?
先般日本で開催されたラグビーのワールドカップやサッカーのワールドカップを観ながら、疑問に思ったことはないだろうか?
オリンピックはグレート・ブリテンとして参加する「イギリス」という国が、なぜフットボールやラグビーではイングランドなのかと。
いやいや、イギリス=イングランドじゃないのだ。
イングランドとはあくまでイギリスを構成している国の一つ。
サッカーのワールドカップにはスコットランドもウェールズも北アイルランドもアイルランド共和国も参加している。
ただ、サッカーはあまり強くないので目立たないだけなのだ。
それを証拠にラグビーではみたでしょう?スコットランドもウェールズもアイルランドも。
ちなみに、ラグビーに関しては北アイルランドとアイルランド共和国の分断はない。双方が選手を送り一つの統合したチームを送り出している。それはアイルランドラグビーユニオン(IRFU)の創立が1879年であり、アイルランド島がイギリスによって北と南に分断された1921年よりも前だからだ。
そしてなかなか仲が悪い
イングランドが他の国を制して連合国を作り上げた歴史もあって、互いのライバル意識や文化的差異への関心は非常に高い。
君主の戴冠式で使われる王冠や石はそもそもスコットランドに帰属しているのに、なんて会話はしょっちゅうだ。
でも、「勝者の歴史」はここでも明らか。イギリスで語られる歴史はイングランド目線のものが主流なのである。
王太子の肩書が、なぜプリンス・オブ・「ウェールズ」なのかについては以前も触れた。
それぞれの国民性の違いは割と強く、そしてそれがわかると人の振る舞いも腹に落ちて来たりする。
イングランドは覇権国だけあって、プライドも高いし、オレたちがこの国の中心だという気概が強い。
スコットランドは、しかし、イングランドにあいにく制圧されたものの歴史だって負けていないし、今は石油も取れるし、お金持ってるぞというプライドがある。
ウェールズや北アイルランドはそんなイングランドとスコットランドの対抗心にはからまないけれど、イングランドが好きじゃないという点では一致する。
むしろ、嫌悪感はアイルランド(共和国も北アイルランドも)の方が強いだろう。北アイルランド紛争は、いまだに「解決した」と断言がされていない問題だし、ブレクジットのおかげでEUとイギリスの国境が必要になったことでさらに緊張は高まった。それをイングランド人たちは「the Troubles (厄介ごと)」と公的に呼ぶ。見ないふり、という婉曲ぶりがすごい。
それに比較するとウェールズの併合はあまりに歴史の深いひだの下。
とはいえ特に北ウェールズではウェールズ語の維持レベルや独自文化の継承が昔から行われていて独立心が強い。
だから、面白いことに、何のスポーツの試合をみていても「とにかくイングランドと戦ってるチームを応援する」というスコットランド人やアイルランド人やウェールズ人は多い。
それがたとえフランスであっても、だ。
このイングランド人、スコットランド人、ウェールズ人と北アイルランド人(つまりグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国の国民)をすべてまとめて呼ぶ場合、ブリティッシュという言葉を使う。
例えば、フランス人と違って「イギリス人」はこうだよね、と言いたい時は、ブリティッシュというのが便利。うっかりイングリッシュというと、他の3カ国を置いてきぼりにしてしまう。
ただ、北アイルランド人によっては、南北の統一意識が強い人は、アイルランド人としてのアイデンティティがあり一緒にされるのを嫌う場合もあるので気をつけて。
対抗心といえば
そんな国同士の対抗心とは少し違うが、もう一つのライバル心を感じるのがアメリカ人に対してだ。
日本人がちょっとでもアメリカ英語を混ぜようものなら、「ちがう、ちがーう!」と赤ペンがはいる。
エレベーターはLiftかElevatorか。
ポテトチップスはCrispsかChipsか。
ポテトフライはChipsか(French) friesか。
Route(道)の読み方はルートかラウトか。
Vase(花瓶)の読み方は ヴァースかヴェイスか。
どれも前者がイギリス英語、後者がアメリカ英語なのだが、とにかくチェックが厳しい。かつてアメリカに占領されていた日本で習う英語はもちろんアメリカ英語。だから、学校で習った英語を使うと、顎を上にあげてすかさず指摘される。
「あなたが話してる言語はイングリッシュ(English)でしょ、アメリカンって呼ばないでしょ。当然こっちが正しいのよ!」
そして、一緒に世界中を旅してまわったが、とにかくアメリカ人と間違われることがとても辛いらしい。
「あんなに声大きくないでしょ!」
宗教はタブーじゃない
アメリカ人との違いといえば、もうひとつ。
イギリス人は(そしてほかのヨーロッパ人も)宗教の話題は全くタブーではない。
アメリカではクリスマスカードには「Happy Holidays」と印刷されていることがほとんどだ。しかしイギリスでは普通「Merry Christmas」。キリスト教色をなくそうということはない。
私はいつも、旅行のマナー本にある「宗教と政治の話をしてはならない」はいったいどこのだれを参考にしているんだろうと思ってしまう。
アメリカは特定の宗教色にすることを避けるけれど、逆に強烈なキリスト教信者などにでくわし熱心に教会に誘われることもとても多いし、むしろ何を信じているか訊いてくる人って田舎に住んでいるアメリカ人がいちばん多かった。
それに、政治の話をタブーにしたら、イギリスのパブの話題がサッカーとラグビーだけになってしまうじゃないか!
と、いうことで、今回はここまでにしておきましょう。
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