変態とあまのじゃく
コロナ以来、生活のベースをロンドンから変えてしまった友達はたくさんいる。ケビンもそのひとりだ。
チェスター郊外の実家に帰って以来、しめきった家の空気を入れ替えにたまにロンドンにやってくるものの、その頻度もどんどん少なくなってしまった。
「さっき、すごい雨だったよね」
オーストラリア人のアナと3人で作っているグループチャットにケビンから突然メッセージがやってきた。
ロンドンに来てるよ、と素直に云ってこないところがケビン。
あれ、戻ってきてるの、と週末に3人でランチすることにした。
「お店はどこにする?」
ケビンちの近所に新しくできたタイレストランはどうかな。
おりしもそれは母の日の日曜日。きっとレストランは混んでいるに違いない。
ところが、何時にしようかというと、ケビンは予約なしで大丈夫だと言い張る。
私とアナは家が近い。だからたいていまず二人で待ち合わせをしてからレストランに一緒に向かう。
お店を予約しないんだったら、ケビンはテムズの左岸から、私たちは右岸から歩いて行って、適当に出くわしたところでだいたい1時半くらいに落ち合おうという、ざっくり待ち合わせが決まった。
「2時に間に合うかな」
歩いていると、ケビンがおもむろにいう。
え。予約いらないっていったじゃん。
ところが、やっぱり満席だったらいやだなと思ったケビンは私たちと落ち合う前に店に立ち寄って予約をしてきたのだという。
まったくケビンって素直じゃないし、ほんと"あまのじゃく"だよね、と云おうとして、言葉に詰まった。
「日本語でさー、ケビンみたいなのを"アマノジャク"っていうんだけど、いい英語が浮かばないんだよね。なんなんだろう」
そう私が言うと、ケビンがサッと携帯の翻訳アプリの画面を差し出した。
アマ
ノ
ジャク
活舌よく私が携帯にそういうと、
"perverse"
と画面にでてきた。
え?
え?
発音のせい?と私は焦り、
ケビンとアナは二人で携帯画面をのぞいて爆笑した。
なぜかというと。
私たちみんな、画面のことばを"pervert"だと取り違えたからだ。
「違う、ちがうってば。アマノジャクは、なんていうかcontrary(正反対のことをするという意味の形容詞)っていうか」
あたふたした私は、頑張って説明をしようとし、画面に他に挙げられている単語はなんだろうと見るうち、綴りが少し違うことに気がついた。
そうそう。
まさにこれぞあまのじゃくの訳語じゃん。
その単語を逆に日本語に訳してみて納得。
私の活舌も問題なかったし、Google様の翻訳も間違っていなかったのだ。
私たちにとって、「pervert(変態)」のほうがあまりによく知っている言葉だったから、見た目ですぐそちらに飛びついてしまったのだ。
どうやら動詞としてのpervertという単語には、好色や不道徳によって堕落するという意味、また、詭弁を働かせて本意を変えてしまう、物事を逆用するといった意味があるらしい。
にしても、私たちってば、3人そろって、画面を見た瞬間すぐにパッと「変態」という結論に飛びついてしまったとは。
いやはや、私はあやうく友達に変態のレッテルを貼りつけるところだった。
なんて思っていたら、noteで偶然この記事が目に飛び込んできた。
奇妙なシンクロを感じてしまった。
変態を追求、まではいかないけれど、
ちょっと変態を深堀してしまったそんな日曜日。