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【1000字書評】『鬱の本 84人の鬱の本のかたち』

【概要】
この本は、10年以上前に夏葉社さんという出版社から出された『冬の本』にインスパイアされて作られたそうです。装丁や84人の本紹介であること等、まさに『冬の本』をかなり愛した方(屋良朝哉さん)が編んだのだとわかります。

まえがきにもあるように、これはうつに関する「マニュアル本や啓発本」ではありません。各著者がうつ病またはうつ状態を経験したかもわかりません。それでも、ひとりひとりの文章からは暗い苦しみの中から一筋の光のような本に出会った経験や、クスっと笑えるエッセイ等が収録されており、どのページから読んでも楽になる処方箋のようになっています。

【感想】
鬱の本』ずっと読みたいと思っていました。一方で、うつ状態の際には本が読めないことはわかっていたので「もっと辛くなったらどうしよう」と思ってなかなか開くことができませんでした。

まず1ページだけでもとまえがきを読むと「小さいけれど、誰かが助かる本」を作りたいという記載があり、わたしの心配は一蹴されました。助けてくれるなら助けてもらおうと、ページをめくる勇気が出てきたのです。

最初は青木真兵さんという方のエッセイからはじまります。社会が発達し、身体よりも脳が発達し、コンピュータ等で脳を使いまくる結果のうつ社会なのではないかという仮説。物質や身体を面倒くさいものとして、より便利なものに置き換えたことのアラームがうつなのではないかという考え方は、とても興味深いです。

ひきこもり名人で有名な勝山実さんは、他の方とは少し変わった形でエッセイを寄稿していました。本紹介ではなく、うつで本が読めるわけがない。そして、読めないのではなく読みたくないだけだと喝破します。確かにその通りで、何もできない、本が読めないと言いながらスマホは触れます。本を読まなきゃという強迫観念が真面目な自分を襲っているだけなのかもしれません。

わたしの好きな水野しずさんも寄稿されています。これまた私の大好きな中島らもさんのエッセイを紹介されていて、好感が持てます。
読まなきゃ!というときにニーチェなんかに手を出すという行為に「やめとけ!」と忠告する水野節は、やっぱり健在です。

結果的に、本は無理して読むものではありません。読めなくなったのは、休息が必要だからです。「なにもしない」この簡単そうで難しい行為にいざなってくれるのが本書である気がしています。鬱の本を読んで本を読まなくなる、なんかおもしろいですね。

ちなみにわたしのおすすめ鬱の本はしんめいPさんの『自分とか、ないから。』です。




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