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【1000字書評】エリック・ホッファー『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』

白衣をまとった研究チームが、天才科学者の指導のもとに勤しむものだけが科学ではない

ダニエル・L・エヴェレット著,屋代通子訳(2012)『ピダハン』みすず書房,p1.

こんにちは、サイトウです。

今回は、過酷な環境でも自身の希望のために人生を全うした哲学者、エリック・ホッファーについて紹介します。


【概要】
著者であるエリック・ホッファーは1902年ニューヨークで生まれました。7歳で母親を亡くし、同時期に原因不明の失明になってしまったそうです。しかし15歳の頃突然視力が回復します。18歳で父も亡くなったことから天涯孤独となり、その日暮らしの日雇い生活を始めます。同時に様々なことを学び、のちに哲学者として大成します。晩年まで、彼の研究フィールドはもっぱら日雇い労働の環境と図書館でした。
本作品は、波止場労働者となった後のさまざまな人との出会い、書物との出会いについて描かれたものです。

【感想】
彼の立場は「在野研究者」に位置付けられます。「在野研究者」とは荒木(2016)によると「狭義の学術機関に頼らずに学的な営みをつづけてきた研究者」※1 のことです。仕事を持ちながら、ただ学問を続けたい一心で時間を作って研究する。なんだかカッコいいですよね。ちなみに日本における在野研究者といえば粘菌学者で有名な南方熊楠。彼もまた、図書館通いで学んでいた在野研究者です。

本書を読み進めるとドラマのような衝撃的な出会いと別れの数々に驚かされます。一目惚れした女性と両想いになったとか、知り合った仲間が列車から吹っ飛んで死んだとか、アル中の羊飼いが偶然自分の飼ってた羊を貨物列車の荷台に見つけ、警察と小競り合いになったあげく精神科病院に入院したとか・・・。フィクションだろうと疑ってしまいますが、真相はわかりません。
しかしなんといっても彼の文章力・表現力は素晴らしいと思いました。これがたとえフィクションであったとしても、憧れてしまいます。

わたしの好きな一文は「一人でいるときこそが最も創造的なときだと信じて生きてきたが、思想の種子が芽生えたのは群衆の中に身を置いたときである」です。何事も外に出てみなければわからないのだと思います。そうしたことを、彼は体を張って教えてくれているのだと思います。



-引用-
1.荒木優太(2016)『これからのエリック・ホッファーのために 在野研究者の生と心得』東京書籍,p5. https://amzn.to/44nGnaT


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