【第10話】これぞ食育
野山を駆け巡って泥んこになって遊ぶのは、当時の子供達には日常の中の当たり前の光景であった。男子はみんな小さなナイフ(肥後ナイフと呼ばれる折りたためるタイプのもの)を持っていた。このナイフ一つあれば竜玉鉄砲 (タマリュウという植物の青い実を鉄砲の玉にして飛ばすおもちゃの鉄砲)も、弓矢も、隠れ家も、魚を獲るヤスも、鳥を獲る罠も、このナイフ一つで何でも作ることが出来た。
山に入る時には、塩を紙に包んで持っていき、遊び疲れてお腹が空いた時にはイタンポ(イタドリ)、シンコ(スイバ)などに塩を付けて食べた。僕が育った地方では、ニガウリ(ゴーヤ)がどこの家の畑でも栽培されていて、赤く熟したニガウリにそのままかぶり付いて食べた。赤く熟すとすごく甘くなるのだ。もちろんニガウリは他人(ひと)んちの畑から勝手に取って来たものだ。この手の盗みは、当時の子供達にとってはもはや日常茶飯事で、盗られた方もあまり気にしていない。というか気にしていたら身が持たない程の悪ガキばかりだ。もちろん僕はその中でも代表格の悪ガキなのだが、当然本人はお利口さんで優等生の良い子だと思っていた。大人になるまでは。
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〜シタール奏者伊藤公朗人生の反省文〜
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