初めて読んだ時の気分は今も鮮明です。
ほんの感想です。 No.14 田山花袋作「蒲団」 明治40年(1907年)発表
十代の頃、田山花袋の「蒲団」を読んだ時の次の気分は、今も鮮明です。
・三十半ばの主人公が弟子である女学生に向けた視線が、きつかった。
・三十半ばの主人公が弟子の蒲団の中で「性欲と悲哀と絶望」に涙する姿が、きつかった。
その苦手意識は、ずっと持ち続けていて、書店の岩波文庫の棚で「蒲団」を見つけては、「二度と読むことはあるまい」などと思っていたのです。
しかし、日本の近代文学を集中的に読み始めてから、「蒲団」に対する自分の苦手意識は、この作品に対する心の引っ掛かりのように思えてきました。そして、読みました。「私も大人になった・・・・」という気がしました。
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田山花袋作「蒲団」は、広辞苑によれば、
日本の自然主義文学の代表作。中年作家の女弟子に対する恋情を描き、大胆な現実暴露によって文壇を衝動させた。
とある作品です。
主人公の竹中時雄は、「かつて美文的小説で少しは名の知れた」という作家です。三十半ばになり、仕事にも、熱烈な恋の末の結婚生活にも、心底うんざりしています。その竹中に、ある日、ファンだという女学生横山芳子から弟子入り志願の手紙が届き、物語が始まります。
芳子を弟子にすると、日々その華やかさを感じながら、竹中の気分は明るくなります。そして、彼の芳子への思いは、勝手な妄想によって徐々に加速され、やがて暴走し、ついには自爆する。「蒲団」には、そのようなことが描かれています。
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竹中という人は、若い女性に囚われたとき、周囲のことが全く見えなくなります。相手の気持ちを確かめもせず、勝手に彼女を強烈に求め、それがかなわぬと勝手に烈しく絶望する。
例えば、彼は、「出産の際に妻に万一のことがあるかもしれない。そのときは芳子を後妻にしてもよい。芳子はきっと喜ぶだろう」と考えます。しかし、芳子には、竹中に対するそんな気持ちは全くないのです。
「蒲団」は、それまでになかった小説として、文壇や社会に衝撃を与えました。その、新しさは、次のことを描いた点にあります。
・作家の実生活上の出来事を描いたこと
・個人的の内心、特に欲求がストレートに描かれていること
確かに、田山花袋が、女弟子に対し恋情した実生活を、作品で暴露したことは、当時において大変なショックだったのでしょう。それは、明治40年(1907年)という発表当時の倫理観を前提にすれば、今では想像できないような大きな衝撃と思われます。
今回、「蒲団」を読み、主人公があることに囚われ、周囲のことが見えなくなる中で、強烈に求め、烈しく絶望する、その様が書き込まれていると感じました。そして、「ああ、私は、田山花袋先生の、ここが怖かったんだ」、と思い至りました。
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