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「?」なあなたを、もっと知りたい「舞姫」 by 森鷗外

第3回  森鷗外作「舞姫」発表1890年(明治23)

こんにちは。今回は、森鷗外のドイツ三部作の中から「舞姫」です。
一度、読むのを断念したことがあり、今回も、1ページ目から、ハードルの高い文体に怯みました。
悪戦苦闘の甲斐あって、「ギャー」というクライマックを迎えました。その後、主人公への「?」な思いの理由を考えてしまいました。そのおかげで、この作品に愛おしさを感じたような気がします。

あらすじ

ドイツに留学した若い官吏は、踊り子の少女と出会う。
男は、踊り子との交際を問題視され免官されると、踊り子と暮らし始める。

その後、友人の支援により、男は、帰国のチャンスをつかむが、妊娠した踊り子に、どう説明するかを悩み、病に倒れる。
そのあいだに悲劇的な決着があり、病から回復した男は、日本へ帰る。

こう読みました

本作を読む上で、物語の流れに乗る、謎を解く、の二点を意識しました。

一 物語の流れに乗る
本作は、主人公の免官、つまり「くび」になるまで、彼の過去について淡々と記されます。一方、その後は、踊り子を愛したことに起因する主人公の苦悩について、その深まりが描かれます。

愛する人との暮らしは、はじめこそ「憂きがなかにも、楽しく日々を送る」というものでした。しかし、学問の荒みを自覚すると、彼は、希望の無い将来へ不安感を募らせていきます。

そのような状況で、主人公の気持ちは、友人が与えてくれた「前途への希望」に大きく傾きます。しかし、その選択は、同時に愛する人への背信となることから、彼は、精神的に追い詰められ、思考停止におちいります。

最後の四つの段落で、主人公の思考停止がもたらした悲痛なできごとが一気に語られ、彼の胸中が吐露されます。

ある意味、不愉快なこの場面に、自分が、引きずり込まれていくのが感じられました。

二 謎を解く
謎は、ラストの段落の二文です。
主人公は、友人を「この世で得るのが難しい良い友」といいながら、あることに関して「彼を憎み続けている」というのです。
この友人への憎しみに、微かにですが引っかかりを感じます。

主人公が友人を憎む理由として、 
「友人には感謝しきれない厚情を受けたが、そのせいで、自分は、取り返しのつかないことをしてしまったから」と考えてみました。
しかし、それでは、流され続けてきた主人公の弱さが、さらに上塗りされる気がします。

作者はなぜ、そこまで、主人公をだめな男にしたいのか?
謎は深まります。

感想

「踊り子」と「前途への希望」の選択を迫られていた主人公は、「前途への希望」に傾きつつも「踊り子」を捨てる決断にはいたっていません。
なぜなら「何と説明しようか」と思いあぐねるうちに、彼は病に倒れ、その間に、友人が帰国のことを踊り子に話すからです。悲劇の発動装置として友人を置いたことは、絶妙に思われました。

そのことは、「もし、友人が話さなかったら、主人公は、帰国を踊り子に、どう説明していたか?」を考えると、よく理解できるように思います。
踊り子との結びつきに、最も反対すると思われる主人公の母親は、亡くなっています。

彼は、真摯に「いずれ迎えに来るから待っていて」と言っていたかもしれません。その場合、主人公の真剣さを描写しても、その場しのぎの常套句の印象を払拭することは、難しいと思われます。

創作のヒント

主人公の友人の話に激しく反応した踊り子の描写からは、呪いの言葉を吐く恐ろしい声が聞こえるようでした。激昂した彼女に、自然と、道成寺の、清姫の姿が重なりました。

そして、私には、踊り子の激しい怒りに対し、主人公が向き合っていないように思われてきました。
「こんな弱い俺だから仕方ないよね」と、自分の弱さに逃げているようにみえるのです。ここは、正面から彼女の怒りを浴びてほしい。
そこで、私の案です。

友人から、主人公の帰国計画を告げられた踊り子は、精神の破壊で、鬼に変じてしまった。主人公がそのことを知った日から、夜ごと、夢の中で、かつての愛人に許しを請いながら、鬼に喰らわれ、昼間は、愛人を鬼にした友人に恨みを言う。お粗末!

第4回は、2021年2月24日(水) 幸田露伴作「五重塔」の投稿を予定しております。 

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