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都に帰った後も、その人のことを忘れなかった。

国木田独歩の作品は、読んだことがない、そんな方へ、小説の一片を!

ご紹介するのは、国木田独歩作「源叔父」から。
東京から来た若い教師は、宿の主人との世間話で、妻子に先立たれた老船頭の源叔父のことを知ります。若い教師は、東京に戻ってからも、なぜか源叔父のことを忘れがたく、ずっと心に留めていました。

しかし、彼に知る由もなかったのですが、老船頭は、寂しく亡くなっていました。引き取った若い乞食と「家族になる」という希望を信じることができなくなったからです。

若い教師が、その死も知らず、源叔父のことを、「今頃どうしているだろう」と気に掛けるのが、次の場面です。

灯火に座りて雨の音きく夜なおど、思いひはしばしばこのあはれなる翁が上に飛びぬ。思へらく、源叔父は今は如何、波の音ききつつ古き春の夜の事思ひて独り炉の傍らに丸き目ふさぎてやあらん、あるひは幸助が事のみ思ひ続けてやをらんと。されど教師は知らざりき、かく想ひやりし幾年の後の冬の夜は翁の墓に霙(みぞれ)降りつつありしを。

源叔父の孤独の深さと、家族を得ることの難しさを悟り、選んだ道は、とてもつらい内容でした。しかし、源叔父と接点のない若い教師が、源叔父を忘れがたく思う心情に、救われる気がしました。彼となら、悲しみを分かち合えるだろう、と思われたからです。

これが、国木田独歩の抒情なのでしょうか。

お立ち寄り頂き、ありがとうございました。

物語の一片 No. 10 国木田独歩作「源叔父」  


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