ネタバレ厳禁!読めばわかる、夢野久作の仕掛けの鮮やかさ
小説の一片 No.23 夢野久作作「死後の恋」 昭和28年(1953年)発表
「あっ」と驚きたい、そんな方へ、小説の一片を!
夢野久作といえば「瓶詰地獄」です。三つの瓶に入れられた書簡を手掛かりに、読み手は物語をたぐります。書簡を読む順番が変わると、内容が変わるように思われて、読了後しばらくはモヤモヤとした気持ちになる作品です。そのモヤモヤが内容の無気味さとともに作り出す独特の雰囲気が、夢野久作の魅力だと思っていました。
ところが、「死後の恋」は、非常に整っている印象を受け、驚きました。ある人物との思い出の中で、宝石への欲望、暗い予感、悲惨な事件について語られていきます。そして、それらは、ある仕掛けにより、鮮やかに一枚の絵となり、眼の前に示される、そんな作品だったからです。
旧ロシア貴族の血を引くというその男は、旧式のくたびれた礼服を身に着け、「その町では怪しい人物として知られている」ことを自ら述べます。そんな彼が、次のように語り出すと、後はもう怪しい話に引き込まれるばかりです。
さよう・・・・・只きいて下されば、いいのです。そうして私がこれからお話しする恐ろしい「死後の恋」というものが、実際にあり得ることを認めて下されば宜しいのです。そうすればそのお礼として、失礼で御座いますが、私の全財産を捧げさして頂きたいと考えておるのです。それは大抵の貴族が眼を眩わすくらいのお金に価するもので、私の生命にも換えられぬ貴重品なのですが、このお話の真実性を認めて、私の決定してくださるお礼のためには、決して多すぎると思いません。惜しいとも思いませぬ。それほどに私を支配している「死後の恋」の運命は崇高と、深刻と、奇怪とを極めているのです。
その仕掛けの鮮やかさは、読めばわかります!
今回読んだ本 新潮文庫 夢野久作「夢野久作傑作選 死後の恋」