菜の花も咲きかけ、麦の青みも茂りかけてきた!
もっともっと春の息吹を感じたい・・・。そんな方へ、小説の一片を!
伊藤左千夫による「隣の嫁」という作品があります。
結婚に失望した農家の嫁おとよが、隣家の弟息子で、十九歳の省作に心を寄せます。近所で二人が噂になる中、おとよと省作は、互いの気持ちを確認します。その後、おとよは、離婚して実家に戻ります。省作も、婿養子に行ったものの、噂が原因で破縁となり、家に帰ります。
ご紹介するのは、その続編となる「春の潮」から。
独身に戻った二人の未来の前には、大きな壁がありました。しかし、「春の人」と表現された省作の、温かさ、気だての良さが、味方を集めてくれます。そんな省作を育んだ土地の「春」が、次のように描写されています。
上総は春が早い。人の見る所にも見ない所にも梅は盛りである。菜の花も咲きかけ、麦の青みも茂りかけてきた、このごろの天気続き、毎日のどかな日和である。森をもって分かつ村々、色をもって分かつ田園、何もかもほんのり立ち渡る霞につつまれて、ことごとく春という一つの感じに統一されている。
はるかに聞こゆる九十九里の波の音、夜から昼から間断なく、どうどうどうどうと穏やかな響きを霞の底に伝えている。九十九里の波はいつでも鳴っている。ただ春の響きが人を動かす。九十九里付近一帯の村落に生い立ったものは、この波の音を直ちに春の音と感じている。
ああ、行ってみたい!
お立ち寄り頂き、ありがとうございました。
物語の一片 No.4 伊藤左千夫作「春の潮」
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