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放置危険!父と子の思いのズレ
ほんの感想です。No.12 中島敦作「牛人」
中島敦作「牛人」は、「父の思い」と「子の思い」のズレの物語として読みました。
あらすじ
「牛人」は、次のように始まります。
魯の淑孫豹(しゅくそんひょう)がまだ若かった頃、乱を避けて一時斉に奔ったことがある。途に魯の北境康宗(こうそう)の地で一美夫を見た。俄かに懇ろとなり、一夜を共に過ごして、さて翌朝別れて斉に入った。斉に落着き大夫国氏(こくし)の娘を娶って二児を挙げるに及んで、かつての路傍の一夜の契りなどはすっかり忘れ果てて了った。
それから十数年後、主人公の淑孫豹の前に、忘れ果てていた一夜の女が、色の黒い背の曲がった少年を伴って現れます。少年を小姓として使うと、有能な働きをすることから、淑孫豹は、彼に深い信頼を寄せていきます。けれども、跡継ぎにするということは、決して考えませんでした。
こう読みました
1 父の思いと子の思いのギャップ
いきなり「あなたの子どもだ」と言われた淑孫豹からすれば、「立場上、正嫡でない子どもに対し、できることは限られている」という説明もできるのでしょう。彼は彼なりに頑張ったのかもしれない。
しかし、子どもの心は、「それじゃあ仕方がないね」と納得できるものでしょうか?
そのような「父」の思いと「子」の思いのギャップが、この物語のポイントのように思われます。
「父と子の思いのギャップ」は、淑孫豹の運命を示唆する二つの夢で表現されたように思います。最初の夢は、母に連れられた少年の、容貌と名前に一致し、淑孫豹を驚かせました。次に、淑孫豹が見覚えのある夢を見たとき、しかし、それは前とは異なる様を彼に見せます。その夢に、彼は、一瞬、自分の人生を省みたと思われます。
そして、淑孫豹の最期をみれば、息子がどのような感情とともに父に接してきたのか、漠然とはわかる気がします。彼は、父に対して何かを欲し、それを得られないから、それなりのことを父にした。
2 考え続ける物語
ところで、息子が何を欲していたのか、私には、読み取ることができません。それを知る手掛かりとして、淑孫豹に対する息子の「ある感情」が、いつ、生まれたのか、とても気になります。父に会う以前か、それとも父の元に来てからか、ならば、いつ・・・・という具合に。「牛人」は、考え続ける作品となり、また、「次に読んだときの発見が楽しみ」、という作品になりました。
最後に
現代が舞台であれば、財産や名誉などが絡み合い、生々しい近親憎悪となるところ、魯という紀元前三世紀に滅んだ国の、王家に連なる名家の物語としたことで、父と子の互いに向けた思いの差異が、雑物なく抽出されたように感じました。
よろしかったら、中島敦作「牛人」、お楽しみください。