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シャツの袖が出て、貝のボタンがきらきら光り輝くように企てた。
最近おしゃれに迷っている、そんな方へ、小説の一片を!
ご紹介するのは、太宰治作「おしゃれ童子」から。
冒頭、主人公の「おしゃれ童子」ぶりが語られます。小学生の彼は、毎年の修業式で、校長先生から賞品を頂く総代を務めました。その際、彼は、あるこだわりを発揮します。それは、差し出す両腕の着物の袖口から覗く白いシャツの見栄えです。
修業式の朝の彼の様子は、次のように描写されました。
一夜明けて修業式の朝、起きて素早くシャツを着こみ、あるときは、年とった女中に内緒に頼んで、シャツの袖口のボタンを、さらに一つずつ多く縫いつけさせたこともありました。賞品をもらうときシャツの袖がちらと出て、貝のボタンが三つも四つも、きらきら光り輝くように企てたのでした。家を出て、学校へ行く途々も、こっそり両腕を前方へ差し出し、賞品をもらう真似をして、シャツの袖が、あまり多くもなく、少なくもなく、ちょうどいい工合いに出るかどうか、なんどもなんども下検分してみるのでした。
大人になり、心の暗黒時代に入ると、彼は「おしゃれ」を見失います。しかし、恋人を得て、ロマンスの世界に入ったとたん、おしゃれ心も復活します。太宰治は、そんな彼を、「外面の瀟洒と典雅だけを現世の唯一の『いのち』として信仰している」と書いています。
おしゃれは、難しい。
おしゃれとは、何なのでしょうか。
それにしても、「おしゃれ童子」というタイトルは、おしゃれです。
お立ち寄り頂き、ありがとうございました。
物語の一片 No.8 太宰治作「おしゃれ童子」