見出し画像

18. 台湾のビンロウと美女に驚かされる

 嗜好品といえば、グアム島の路上で「乾いた血痕」を見て驚いたことがある。そのとき同時に、先住民チャモロの人なのか、陽焼けした中年男が突然、赤茶けた唾を吐いた。「喀血か」と思ったが元気そうだ。
 それがビンロウ、だった。独特の香りの精油を含むコショウ科のキンマ(=ベテル)の葉に水で練った石灰を塗り、ビンロウヤシの実を包んでくちゃくちゃ噛み、口に広がった真っ赤な唾液を吐き出す嗜好品の一種である。この習俗は東南アジアからインドまで広く分布している。

 それを台湾の村の、川辺の屋敷の庭の焚き火で鶏を焼きながらの酒宴で初体験した。放し飼いの鶏肉は固かった。が、塩を振りかけて直火で焼くだけで実にうまい。甘口の清酒のような酒の飲み心地も申し分ない。
 やがて主人がビンロウを勧めてくれた。口に含み、ひたすら噛む。大量の唾液が出て、いがらっぽい苦味が口中に広がる。と、脳髄に「かぁーっ」と熱感が伝わり、軽い興奮の酩酊がせりあがってくる。

 そのビンロウを商う屋台が、台湾では国道の随所で営業している。トラック運転手などが立ち寄って買っていくらしい。
 そこには決まってセクシーな衣装の「ビンロウ西施」と呼ばれる女性がいる。西施は、楊貴妃などと並ぶ中国四大美人の一人である。嗜好品は女性の魅力でその価値を高める場合があるのだろう。
 ぼくもビンロウ屋台に立ち寄り、その露出過剰な姿に度肝を抜かれた。が、性的なサービスは提供しないのだという。それは昔の日本の「たばこ屋の看板娘」に似た存在であるらしい。     (写真:Wikipediaより)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?