「市報すいた」から消えた憲法標語
吹田市広報課が毎月発行している「市報すいた」。
2017年には毎日新聞主催の「近畿市町村広報紙コンクール」で最優秀賞を受賞するなど、写真を上手に使って視覚的に見やすいデザインにするなど工夫しています。
「市報すいた」に44年間掲載されてきた憲法標語
さて、この「市報すいた」に1973年から、憲法標語が載っていたことをご存じでしょうか。
憲法を知ろう生かそう くらしの中に
憲法が生きてる よい町よいくらし
憲法を生かして育て 地方自治
この平和 このしあわせ この憲法
憲法守って 明るい吹田
吹田市は市民から公募した上記の5つの標語を毎月輪番で「市報すいた」に掲載してきました。
ところが、2017年4月号から突然、この標語が消えてしまったのです。
2016年12月5日の吹田市議会で、藤木えいすけ議員(自民)が、「このような政治的発言と捉えられても不思議でない標語を公金で作成、配布している市報に掲載している現状を改めるべき」と質問。
これに小西義人総務部長は、「特定の主義、主張を支持するものではございません」と答弁しつつ、「リニューアルの中で…検討を進めてまいります」と匂わせています。
2017年5月19日の吹田市議会では、柿原まき議員(共産)が「憲法標語は、市が市民から募集した経過から、広報担当の判断で勝手に掲載する、しないを決めてもよいのか」と質問し、後藤圭二吹田市長は「市報のリニューアルに伴う編集上の事情により掲載を中止した」と答弁しています。
「市報に言葉が掲載されるかどうかなんてどっちでもいい…」という方もいらっしゃると思います。しかし、言うまでもなく憲法は主権者が権力を縛るものであり、市長や議員をはじめ公務員には、憲法尊重擁護義務が課せられています。編集上の事情としても、この標語をあえて消す姿勢には疑問を持たざるをえません。
さらに憲法標語以外にも、吹田市は市制30周年を記念して市民から公募した「吹田市民の歌」について、2015年6月ごろから市役所内での放送を廃止しています。代わって放送されるようになったのは、吹田市とは直接関係のないクラシック楽曲です。
市民から公募したものを大切にせず、安易に消してしまうことは市が今後何か公募したとしても「応募してもぞんざいな扱いをされてしまうのではないか」と市民に思われてしまいかねない問題です。
吹田市の憲法標語はどのように誕生したのか
では、吹田市の憲法標語はどのように生まれたのか。
市は、1973年5月の憲法記念日の記念事業の一つとして、同年4月に「憲法と私たちの生活」をテーマに市民から公募を行いました。吹田市主催の「憲法をくらしに生かす市民のつどい」(現在の「憲法と市民のつどい」)が始まったのが、前年1972年のことです。
吹田市民会館で1973年5月1日に開かれた「憲法をくらしに生かす市民のつどい」で、審査委員長の阿部惣吉さん(株式会社サンリバー)から標語の入選作品発表と審査経過が報告されました。
この席で、当時の榎原一夫吹田市長は次のようにあいさつしています。
憲法の内容をまず知ることが大切である。と同時に、その憲法の精神をどのように実践にうつすかという問題を忘れてはならない。
市では、市民のいのちとくらしを守るため老人医療・保育園など福祉行政の問題と、教育内容の充実、教育費の父兄負担軽減を重点施策にすすめてきた。今後も、市民の期待にこたえるため、市民参加の市政の実現に努める。
この日のつどいには、800人の市民が参加。吹田市人権擁護委員の小畑勇次郎龍谷大学教授が講演し、吹田市に住んでいた黒田了一大阪府知事があいさつしています。
市民はどんな思いで憲法標語に応募したのか
「憲法をくらしに生かす市民のつどい」で、憲法標語の入選者の紹介が行われました。「市報すいた」1973年5月10日号に、入選者からの言葉が掲載されており、これを読むと応募した当時の吹田市民がどんな気持ちで標語を考えたのか伝わってきます。
※住所については、一部省略しています。
憲法を知ろう生かそう くらしの中に
三木勝子さん(竹見台●●)
かけがえのない一人一人のいのちが大切にされ、だれもがしあわせになれる社会―それがわたしたちの願いであり憲法の心です。その実現のためにも、憲法がむづかしいからといって、政治家まかせにするのではなく、わたしたちが憲法について知り、そこに流れている人間尊重の精神をくらしの中に生かしていくことが大切だと思います。
千里ニュータウンも、生活環境に恵まれているといわれますが、野菜など物価が高いうえに、図書館や文化施設は少なく、最近では緑地の破壊も問題になっています。憲法が描く理想には、まだへだたりのある現状を、少しでも良くしていくために市でも行政をガラス張りにして市民とともに考え、協力してみんながしあわせになれる市政を進めていただきたいと思います。
憲法が生きている よい町よいくらし
見山清三さん(末広町●●)
戦争が終って4半世紀がすぎましたが、人生の大半が戦争であったわたしたちの年代のものは、平和がなによりもの願いです。その平和が憲法で守られているのだと身にしみて感じています。
憲法には、赤ん坊から老人まですべての国民が文化的で健康な生活を送る権利が保障されており、吹田市では、全国にさきがけて65歳以上の老人医療費が無料化されました。今後も取り残されがちな老人・婦人・子どもたちのために心のかよったきめの細い行政を進め、憲法を市政の中に生かしてほしいと思います。また郷土愛を通じて地方自治に対する関心を高め、住みよい吹田の町づくりに貢献する青少年の育成にも力を入れていただきたいものです。
憲法を活かして育て 地方自治
西垣源蔵さん(千里丘中●●)
標語が入選したことは、たいへんうれしいのですが、その反面市民として大きな責任も感じています。憲法にたいしてまだまだ「紋次郎」型の市民が多いのは残念なことです。昨年の憲法のつどいに参加したとき、榎原市長が「まず地方自治のなかに憲法を生かす努力をしたい」と強調しておられたことが印象に残っていたのでこのような標語をつくりました。国はもちろんのこと地方自治体にあっても憲法の精神を行政のすみずみまで生かし、市民中心の政治をすすめていただきたいと思います。そのためには、市民は自分の権利を守るためにももっともっと政治に対して関心を持ち、政治の動向をつねに一つ一つチェックすることが大切だと思います。市も市民が行政に参画できる場を意欲的につくられ、市民もこれには積極的に参加する姿勢をもちたいものです。
この平和 このしあわせ この憲法に
山本恵三子さん(津雲台●●)
新聞で「憲法標語」募集の記事を見たとき、わたしの心に浮かんだのは「平和」という言葉でした。テレビなどでベトナムの戦争での生々しい姿を見聞きするにつけ、平和のありがたさを感じていたわたしですが、この平和を守ってくれる頼もしい見張役が憲法だと思います。わたしたちが憲法をしっかりと支えていくことによって平和を守っていきたいという願いをこめて、標語に応募しました。最近、一部では、わざわざ「仮想敵国」までつくって戦争の訓練をしたり、憲法第9条を変えようとする動きもあるとききます。
わたしは政治がかったことはきらいですが、平和の番人としての憲法をひとりひとりの生活の中にとけこませていくうえで、わずかでも力になればと願っています。
憲法守って 明るい吹田
森猛さん(高浜町●●)
3月の終わりでしたか、市報すいたにのっていた「憲法標語」の募集記事を見たとき、わたくしはなんだか時期はずれの、そして場違いのような印象をうけました。しかし、考えてみれば市のこの企画は、時期はずれどころか、わたしたちにとって、いちばん大切な問題であったと思うのです。
日ごろ、いろんな人と話しましても、「ラジオやテレビのニュースを聞くと、いったい日本の国の行く末がどうなるのか恐ろしい」といった意味の言葉をよく聞きます。わたしのように、老境にはいったものには自分たちの支えてきた日本のことを考えずにはいられないのです。
現代の世相を見るとき、何か大切な柱が1本抜けていると思うのです。その柱とは、憲法を守るという柱です。その意味で、わたくしの標語が選ばれたことを非常にうれしく思っています。
それぞれの思いがよくわかります。政治家まかせにするのではなく、主権者として考え、行動していくことが大事だということを今の吹田市民に呼びかけているかのようです。
2017年5月19日の柿原まき議員の質問に対して、現在の後藤市長は、「日本国憲法は国民の権利を守るための最高法規であることは間違いありません。本市も当然ながら、憲法の精神を遵守し、市民一人一人の人権が尊重され、豊かさに満ちた暮らしをすることを是として市政運営に当たる、これを基本と考えております」と明確に答弁しています。
榎原元市長が憲法標語の発表に際して、「憲法の精神をどのように実践にうつすかという問題を忘れてはならない」と語り、具体的な施策をすすめたように、後藤市長にその言葉の実践を期待したいものです。