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ヴァチカンのエクソシストで学ぶ「悪魔祓い」

映画で学ぶ教養シリーズ。今回のテーマは「悪魔祓い」!
・・・って教養になるのか。

なんか今、エクソシストブームが来てるんですか?
ヴァチカンのエクソシストの続編が決定したラッセル・クロウですが、それとは別のエクソシスト映画にも出演するとか。
そっちの映画は『ジ・エクソシスム(原題) / The Exorcism』。今度は悪魔に憑りつかれる方の役らしいです。

映画紹介

概要

今回の教材映画は『ヴァチカンのエクソシスト』
主演はグラディエーター(2000)でアカデミー主演男優賞を受賞したラッセル・クロウ。
ラッセル・クロウは実在のローマカトリック教会のチーフエクソシストであったガブリエーレ・アモルト神父を演じています。

あらすじ

ヴァチカンのチーフ・エクソシストを務めるアモルト神父は、ローマ教皇の依頼で少年の悪魔祓いを行うため、スペインのサン・セバスチャン修道院を訪れる。変わり果てた姿の少年と対峙した彼は、それが悪魔の仕業であることを確信。教区を受け持つ若きトマース神父と共に本格的な調査に乗りだしたアモルト神父は、修道院に隠された恐ろしい秘密を暴き出す。

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悪魔とは?

どこから何のために現れたの?

悪魔とは何でしょうか?
キリスト教では、悪魔は悪の擬人化です。悪魔は神に反逆し、神と同等になろうとしたと考えられています。
悪魔は様々な文脈や文化で発生しているため、今回はヴァチカンのエクソシストの終盤で「残り199か所の浄化が必要」というセリフから掘っていきましょう。
上記のセリフで死海文書のことだと分かった方、もしかしてエヴァファンですか?
死海文書の中で偽典と呼ばれる書物の一つにエノク書というものがあります。
エノクはあのノアの箱舟で有名なノアの曾祖父です。
エノク書には、悪魔とネフィリム(邪悪な天使と人間の女性との間に生まれる巨人)の起源、一部の天使が天から落ちた理由、創世記の洪水が道徳的に必要だった理由の説明などが含まれています。

エノク書には地上を監視する役目を持った天使達(エグリゴリ)の一部が人間の女に欲情して地上に降りてくるという記述があります。
その天使の数が200名。地上に降りた天使は堕天使と呼ばれ、もう天界に戻ることは出来ません。やがて彼らは悪魔と呼ばれるようになりました。
もっとも有名なのがサタン(ルシファー)ですね。彼はエデンでイヴをそそのかして禁断の果実を食べるように誘惑した存在です。
そして、神との約束を破ったことが全ての人間の原罪であるとしているのがキリスト教の教えです。

それにしても、数千年かけてようやく一体封印したってどれだけ気が遠くなる話なのか・・・。

悪魔アスモデウスとは何者か?

作中で少年に憑依した悪魔の名が明らかになります。その名も”アスモデウス”。

By Louis Le Breton - https://books.google.co.jp/books?id=xhsx4MhNx2gC&hl=ja&pg=PA55#v=onepage&q&f=false; https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k5754923d/f66.image, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2458051

彼は皇帝ルシファーの配下の地獄の王の一人で、72の悪魔軍団を率いています。アスモデウスは色欲の悪魔と呼ばれ、トビト記によればアスモデウスは、ラグエルの娘サラに敵意を抱いており、新婚初夜に7人の夫を次々に殺害し、結婚生活の性交を妨害しました。
トビトが彼女と結婚しようとしたとき、アスモデウスは彼にも同じ運命を告げるが、トビトは天使ラファエルの助言により、彼に対抗しました。トビトは魚の心臓と肝臓を真っ赤に焼けた灰の上に置くことで煙を発生させ、悪魔をエジプトに追いやり、そこでラファエルが彼を捕縛しました。
ちょっと虫っぽい追い払い方。

アスモデウスは求婚者たちの肉欲を罰していたと解釈されています。
本作でも色欲の悪魔らしい攻撃をしてきましたね。

アスモデウスは「七つの大罪の悪魔」の一人としても知られています。
これは1409年から1410年にかけて書かれた『光のランタン』(ジョン・ウィクリフの著作とされる匿名のイギリスのロラード派の小冊子)に書かれたことにより広まりました。

最初の悪魔はルシファーで、傲慢な子供たちを悪意を持って支配している。
2番目はベルゼブブと呼ばれ、嫉妬深い人々を支配する悪魔。
3番目の悪魔はサタンで、怒りが彼の支配者。
4番目はアバドンと呼ばれ、怠惰な従者。
5番目の悪魔はマモンで、貪欲[強欲]と、それにふさわしく、汚れた罪である貪欲が彼の臣下たちと共にある。
6番目はベルフェゴールと呼ばれ、大食漢の神。
7番目の悪魔はアスモデウスで、好色な人々を率いている。

—The Lanterne of Light in original Middle English, p. 60 —Translation: Collette and Garrett-Goodyear

Let's 悪魔祓い

悪魔祓いのマニュアル

強大な力を持つ悪魔に対して人類はどのように対抗したら良いのか。実は前述のトビトのように人類は天使からその知恵を授かっています。
悪魔祓いをはじめとする様々なカトリックの儀礼に関する最初の公式マニュアル、”ローマ典礼書”は1614 年に確立されました。

ローマ典礼書は1999年1月にカトリック教会によって改訂されました。
このマニュアルによると悪魔憑きの98%は精神的または身体的な病気が原因であるといい、カトリック教会が悪魔祓いを許可することはほとんどないそうです。このあたりも作中で言及されていましたね。

悪魔祓いを行うためには、まず地元の司教の許可を得て、被害者が医師による診断を受けた後、教会から正式に任命された司祭または高位聖職者によって行われます。
ちなみに、悪魔憑依の可能性を示す兆候としては、次のようなものがあります。

  • 超自然的な能力と強さ

  • 憑依された者には知る由もない、隠されたあるいは遠くにある物事についての知識

  • 神聖なものに対する嫌悪感および冒涜

悪魔祓いの手順

儀式においてはいかなる状況においても犠牲者を傷つけることは禁止されているため、取り憑かれた人が自分自身やその場にいる人に危害を加えないように拘束されることがあります。その後、エクソシストは悪魔が退くように祈り、命じます。
カトリックの司祭は、”主の祈り”、”アヴェ・マリア”といった特定の祈りを唱えます。

祈りの内容を見てみましょう。

主の祈り(Lord's Prayer)
主の祈りはイエスが弟子に教えた祈りの方法です。この祈りにはマタイとルカによって2つのバージョンが福音書に記録されています。

天におられるわたしたちの父よ。
あなたの御名が崇められますように。
あなたの王国が来ますように。
あなたの御心が天で行われるように、地でも行われますように。
私たちに日々の糧を与えてください。
私たちの罪をお赦しください。
私たちも、私たちに対して罪を犯したすべての人を赦します。
わたしたちを誘惑に陥らせないでください。

ルカの福音書

アヴェ・マリア(Hail Mary)
アヴェ・マリア(英語ではヘイル・メアリー)はイエスの母マリアに呼びかける伝統的なカトリックの祈りです。この祈りは、ルカによる福音書に出てくる2つの聖書の一節、天使ガブリエルの聖母マリア訪問(受胎告知)と、それに続く聖母マリアの洗礼者ヨハネの母エリサベスへの訪問に基づいています。

恵みに満ちたマリアよ、
主はあなたと共におられます。
あなたは女性の中で祝福され、
あなたの胎内の子であるイエスは祝福されています。
神の母である聖マリアよ、
罪人である私たちのために、
今も臨終の時にもお祈りください。アーメン。

ルカの福音書

エクソシストは十字架と聖水を使用し、ERSに記載されている手順に従います。熟練したエクソシストは、必ずしも規定の方式に厳密に従うのではなく、ローマ典礼書を出発点として使用します。
ヴァチカンは悪魔祓いのトレーニングコースを提供しており、2019年に初めて他のキリスト教宗派のメンバーにも開放されました。このコースは「悪魔祓いと解放の祈り」と呼ばれ、教皇庁立レジーナ・アポストロルム教会のサケルドス研究所が提供しています。
悪魔祓いが終わると、悪魔に取り憑かれた人は「罪悪感が解き放たれ、生まれ変わり、罪から解放されたように感じる」と語ります。すべての悪魔祓いが一度で成功するとは限らず、何日も、何週間も、あるいは何ヶ月も、何年もの絶え間ない祈りと悪魔祓いが必要になることもあります。

ガブリエーレ・アモルト神父

プロフィール

ガブリエーレ・アモルト(1925年5月1日 - 2016年9月16日)は、イタリアのカトリックのパウロ会司祭であり、ローマ教区のエクソシストでした。アモルト神父は他の5人の司祭とともに国際エクソシスト協会を設立しました。

悪魔学と悪魔祓いの分野での彼の業績は国際的に認められ、アモルト神父は生涯で数万回、少なくとも6万回の悪魔祓いを行ったと主張し、現代のカトリック教会で最も著名かつ物議を醸す人物の一人となりました。

ヴァチカンのエクソシストはアモルト神父の著作”エクソシストは語る”にインスパイアされて制作されました。

悪魔祓いの実績

2000年10月、彼は5万回以上の悪魔祓いを行ったと報告されています。2010年3月、彼はその数が7万回に増えたと述べました。2013年5月までに、彼は聖職者として16万回の悪魔祓いを行ったと述べた。アモルト神父によると、「悪魔祓いは憑依の犠牲者を表すものではなく、悪魔祓いは祈りや儀式としてのみ数えられる。憑依された犠牲者の中には、何百回もの悪魔祓いが必要だった者もいた。」

教会法の教授であるエドワード・ピーターズは、アモルト神父が9年間で3万件の悪魔祓いを個人的に行ったという主張を「astounding(驚くべき)」と形容しています。
「3万件の悪魔祓いのうち、本格的な憑依はわずか94件だったというアモルト神父の主張を認めたとしても、9年間ほとんど休みなく、月に1件のケースを徹底的に調査し、処理する必要があっただろう。」

アモルトは、その数が多い理由として、一度に1人以上の悪魔に取り憑かれる可能性があり、その数は数千に及ぶこともあると主張しました。また、彼は、「人々が信仰を失い、迷信、魔術、悪魔崇拝、ウィジャボード(交霊術で使用される文字盤。こっくりさんのようなもの)がその代わりとなり、悪魔の存在への扉が開かれている」とも述べています。

悪魔がバチカン市国を攻撃できるかどうか尋ねられたアモルト神父は、「悪魔はすでに試みた。1981年に、アリ・アジャに武器を与えた者たちと協力し、ヨハネ・パウロ2世を攻撃した」と述べました。
※アリ・アジャはヨハネ・パウロ2世を暗殺しようとしたテロリスト

なかなかの偏屈おじさん

アモルト神父に関するエピソードを調べてみると、カトリックの教義に反するものに対して不寛容でドラスティックな意見を持っていたようです。

ヨガに関する見解
ウンブリアの映画祭(2011年のエクソシズム映画『ザ・ライト -エクソシストの真実-』の紹介に招待された)で、彼はヨガはヒンズー教の実践につながるため悪魔的であり、「すべての東洋の宗教は輪廻転生という誤った信念に基づいている」「ヨガの実践は悪魔的であり、ハリー・ポッターを読むのと同じように悪につながる」と語ったと伝えられています。
偏見がすごい。

エマヌエラ・オルランディの失踪
アモルト神父は、1983年にローマで行方不明になったバチカン市国の女子生徒エマヌエラ・オルランディが、バチカン警察と外国の外交官を含むギャングによってセックスパーティーのために誘拐されたと主張しました。彼は、彼女は後に殺害され、遺体は処分されたと述べました。アモルト神父は、バチカンで女の子たちがパーティーのために募集されたと主張し、彼女の死は「性的動機による犯罪」であると付け加えました。
2024年現在、エマヌエラ・オルランディの失踪事件は未解決のままです。

まとめ

悪魔の存在は遥か昔から世界中で語られてきましたが、カトリック教会にとっては、それは現在進行形の話です。
世界中で起きる犯罪やドラッグの蔓延も悪魔が原因であると言われています。信じるか信じないかは個人の自由ですが、信じない人を貶めるような発言はちょっとね・・・。

当初想定していたよりもずっと文量が多くなってしまいました。
自分でも読み返すのがめんどくさい!
次からはもっと短くまとめます。

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