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パリに1年半住んでみた感想:パリのカオス、東京のハーモニー
おととしの8月に、大学院進学のためパリに引っ越してきてからはや一年半近くが経つ。
パリに6年住まれていた金原ひとみさんは、そのエッセイ(「パリの砂漠 東京の蜃気楼」でパリを「砂漠」に例えたが、わたしがパリを一言で表現するとすれば「カオス」である。
パリは美しい。これでもかと丁寧に手入れされた花が咲き乱れる公園、モネの絵で描かれた頃から変わらない歴史ある街並み、いつ食べても驚くほど美味しいパンとケーキ、アート作品かと勘違いするような洗練された広告、通学路の途中に並ぶ有名ブティックの美しい縫製の洋服など、うっとりするような輝きに溢れている。特に私の大学はパリ中心部の6区・7区にあり、毎回の通学の道のりが煌めいたものになっている。私はフランスで働いていた母の影響で中学生のころからフランス文化が大好きで、その映画や文学、音楽に耽溺してきたが、そこで思い描いていた美しいフランスをパリが間違いなく代表している。
一方で、パリは東京や日本の整然とした生活のあり方からは遠くかけ離れている。(全くの誇張なしで)2回に1回は出てこない、まるでゲームセンターの機械かのような自動販売機。申請してから1年経ってやっと届く健康保険証、客に対して不機嫌に声を荒げる病院の受付、スーパーで客に対してクソ!(putain!)と叫ぶ店員。道路に横たわる首の取れた鳩の死体、散りばめられた犬のフン、白昼堂々と道路の中心で小便を足す男性、公園の端で突如ズボンを下ろして用を足す女性、当然の結果として道路から立ち込める強烈な匂い・・・驚きの毎日である。
印象としては、みんなそれぞれで一目を気にせず好き勝手やり、それが気に入らない時はきちんと文句を言って生きているという印象である。こちらで出会う日本好きの人々は、日本の街の綺麗さや安全さ、静けさをいつも誉めてくれる(日本で働きたいという人にも何人にも出会った)。一方、東アジアから来た友人(特に女性)は、揃ってフランスの個人主義を称揚する。個人の自由を制限する形で社会のハーモニーが成立している日本と、個人の自由を最大限尊重する代わりに社会の調和が限定的なフランスを見ると、この二つが間違いなくトレードオフであることを実感する。
この美しさとカオスさが矛盾なく調和している街がパリである。昨年夏のオリンピックでの、マリーアントワネットの首斬りをヘヴィメタルで称揚したり、「最後の晩餐」をパロディしたりする、不謹慎という批判を全く恐れない好き勝手な演出は、この街のカオスさを象徴しているようで非常に私の気に入った。
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