グラノーラ夜盗虫

パリの修士課程で政策評価を勉強しています。読書、料理、映画鑑賞が好きです。

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最近の記事

パリで蓄えた、お洒落前菜のアイデア集

パリのレストランを訪れると、はっとするようなおしゃれ前菜が出てくることが多々あり、これまで料理ではメインにばかり注目していた私にとってはコペルニクス的転回でした。 料理をするとき、私はいつも無意識にメインに注力してしまい、これまでとりあえず草を切って添えるような前菜ばかりを量産してきました。 思えば、日本の一般的な家庭料理では(懐石料理などは除く)、メイン料理の重要性が高かったように思われます。サラダやお漬物はまさにメインの引き立て役で、申し訳程度に添えてある場合も少なくあ

    • 映画「関心領域」:「関心領域」外は無視する人間の性を描く

      この映画は、アウシュビッツ収容所のすぐ隣に建設した大豪邸に住む、収容所長一家の毎日の生活を淡々と描いた映画である。この映画のテーマは、人間が「関心領域」を設定し、その外は無視できてしまうという人間の醜い本質だ。この本質を、いくつかのテクニックで表現することに成功している。 まず、アウシュビッツ収容所自体を直接的に描かないことだ。これまでのナチス批判映画の多くは、ナチスのユダヤ人虐待をビジュアル化するものだった。一方で、この映画の登場人物と私たち観客は壁の向こうを見ることはで

      • 映画「PERFECT DAYS」:持てる者たちが夢想する、持たざる者のパーフェクトデイズ

         映像も音楽も演技も美しいにも関わらず、もやもやした気持ちがずっと残っていた。そして、東京出身のわたしが、パリの映画館でこの映画を鑑賞したにもかかわらず(なんなら子どものときの友達が映画に出ていた)、まったく郷愁の念が起きなかった。  その原因は、美しすぎることだ。これはそもそも物語の中心に置かれる、主人公が働く公衆トイレが、まったく清潔で美しすぎることに代表されている。主人公が掃除するトイレは、見たことがないほど特別な芸術的なデザインのものばかりだ。そして、掃除をする必要が

        • 映画「怪物」: 人と事象の多面性、規範を強制することの暴力性を描く

          (写真の出典: Fashion Pressの記事) 大好きな坂元裕二さんと是枝監督の作品ということで、これ以上なく自分の期待値が高かったが(コラボ報道を聞いた際は、「花束〜」の絹ちゃんばりに「これ内心喜び歓喜する私」状態だった)、それを優に超えていく作品だった。 ちょうど劇場を出た時にある朝の情報番組のスタッフの方にこの映画の感想を問われたが、まさにこの映画は人の多様性と事象の多面性を描くものだったからこそ、そんなにすぐに一言で感想が紡ぐことは不可能だし、不適切な姿勢だぞと

        マガジン

        • フランス留学準備
          1本

        記事

          日々の異国料理

          写真をとっておいた異国料理集をあげます。平日100%仕事に捧げている分、休日は料理で失われてしまった生活を取り戻しています。 ビリヤニ; インド バスマティライスとホールスパイスが成す、3Dな香りがたまらないのがビリヤニです。 一旦炊飯器で炊けるビリヤニなるキットを買ったものの、似て非なる出来上がりでショックでした。これが手作りの重要性を痛感した出来事です。 ビリヤニ太郎さんのレシピが完璧に美味しく仕上がります。全工程で1時間半強かかるかなり手間のかかる料理ではありま

          日々の異国料理

          三浦綾子: 「信仰」と「原罪」を模索する

          この2021年、私が最も作品を読んだ作家は三浦綾子だった。「氷点」に始まり、「続・氷点」、「母」、「塩狩峠」、を経て、今は「細川ガラシャ夫人」を読んでいるところだ。彼女の作品群が繰り返し映像化されていること(そしてさらに韓国など他国でも翻案されていること)がその証査であるように、彼女の作品群は会話中心の文体によるわかりやすさと、エンタメ性の高さが魅力であるが、その糖衣につつまれたテーマとメッセージが、自分にとても関係していると感じるものだったからだ。私がこれまでの人生でぼんや

          三浦綾子: 「信仰」と「原罪」を模索する

          料理で海外旅行気分を味わう(その3)

          私と夫は夫婦共働きの新婚です。さらに私は忙しいので有名な業界に勤めており、そこに飛び込んだばかりの私は四苦八苦しているところです。その中でも”夜ご飯をきちんとつくること”はなにより大切にしています。 これは妻はきちんとご飯を作らねばならないという呪いによるところは多少はあるのですが、それよりも仕事を中心とした生き方では削り取られてしまう”生きる営み”をきちんと維持するための自分の細やかな抵抗、そして純粋な料理をつくる喜びによるものといえます。 私は平日は作り置きして、週末

          料理で海外旅行気分を味わう(その3)

          映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」:現代のスーパーヒーロー映画

          この映画は、クラブで踊るメタボ男性のお腹とお尻を舐め回すように映すシーン(本当に誰得)から始まり、そしてそのクラブでの露悪的な男性同僚同士の女性に対する悪口が続く。このオープニングのシークエンスは、この映画が紛れもなくフェミニズム映画であることを高らかに宣言するとともに、そのお尻の揺れの滑稽さが本作のコメディ的側面を際立たせている、忘れられないオープニングである。 主人公の名前・カサンドラは、ギリシア神話に登場するトロイの王女の名前。未来予知の能力がありながらその言葉を誰に

          映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」:現代のスーパーヒーロー映画

          料理で海外旅行気分を味わう(その2)

          4月から新しい会社に転職、私は例に漏れず忙しさでこころがいっぱいの毎日を過ごしています。その中で大切にしているのが週末にゆっくりと料理をつくる時間です。 料理を作っている間は”いまここにいる自分”に集中できます。料理をしている間は自分の注意が手元やガスコンロに行き、自分のうるさい意識からお暇をとることができます。さらに、料理は達成感を通じて自己肯定感を高めてくれます。短期間で投入したリソースに見合う成果が得やすい営みです。 前回記事に引き続き、作った異国料理とそのレシピを

          料理で海外旅行気分を味わう(その2)

          料理で海外旅行気分を味わう

          最近作った異国料理の写真を載せます。共働きの我が家では、平日にはベーシックな食べ物を作り、休日に少し手の込んだものをつくるのが慣行で、これらはもちろん週末の成果物です。 私はスパイスやハーブが大好きなので、つくるのは専ら和食以外の異国料理に終始するのですが、このようなご時世でも海外旅行に近しい気分を味わうことができるのでとってもおすすめです。料理のアイデアの足しにしていただければ幸いです。 参考にしたレシピも貼っています! モロッコ:ケフタタジンと塩レモンタジン モロ

          料理で海外旅行気分を味わう

          Pachinko噂に違わず面白かった。キャラクター造形が素晴らしい。NHKの大河ドラマにしてほしい(絶対に無理)。

          Pachinko噂に違わず面白かった。キャラクター造形が素晴らしい。NHKの大河ドラマにしてほしい(絶対に無理)。

          AIで乃木坂"64"を錬成する試み:初心者がLightweight GANを用いて機械学習

          はじめに先日以下の記事で言及したUdemyのコース、"100days of Code"はその後細々と続けており、ついに最後20日間の自由課題の段階になりました。 Day92の課題は、好きなWebスクレイピング(ウェブサイトから情報を抽出するコンピュータソフトウェア技術)をすることだったので、任意のウェブサイトから画像を抽出し、これをLightweight GANと組み合わせて画像生成を行うことにしました。他のData Scienceの課題などに比べても、人に見せて楽しい成果

          AIで乃木坂"64"を錬成する試み:初心者がLightweight GANを用いて機械学習

          Klara and The Sun を(新婚)旅行中に読み終えました。文章自体は平易なるも、わからない概念(Cootings Machineなど)が散見されるので、すこし咀嚼してから感想をあげたいところです。

          Klara and The Sun を(新婚)旅行中に読み終えました。文章自体は平易なるも、わからない概念(Cootings Machineなど)が散見されるので、すこし咀嚼してから感想をあげたいところです。

          小説「三つ編み」("La Tresse"):グローバル化が強化する女性間の不平等

          少し前に日本で話題になっていたレティシア・コロンバニの「三つ編み」。入社後2年程度は業務でフランス語を使っていたものの、異動してからここ2年はからっきしなので、勉強がてら原著の « La Tresse »を読むことにした。比較的平易なフランス語で書いてあるので、辞書を時折ひきながら通読することができた。 本作では、表題「三つ編み」が指すように、住む国も立場も違う三人の女性がそれぞれの苦境と立ち向かい、また最後にそれぞれの人生が交差する様が描かれる。  スミタはインドの地方

          小説「三つ編み」("La Tresse"):グローバル化が強化する女性間の不平等

          映画「トイストーリー4」:ウッディの成長を通じて語られるアドラー心理学

          本作では、ゴミから作られたおもちゃ「フォーキー」の存在と、子どもから必要とされなくなったウッディを対比させることにより、ゴミとおもちゃの曖昧な境界を探索するとともに、ウッディのアイデンティティをめぐる問いを通じて、伝統的な役割意識を満たすことによって承認欲求を充足することをベースとした、他者依存的なアイデンティティのありかたからの解放を描いていると理解しました。 本作で中心のキャラクターとなるフォーキーはゴミでできており、決して美しくない仕上がりであり、ウッディのような立派

          映画「トイストーリー4」:ウッディの成長を通じて語られるアドラー心理学

          小説"Woman, Girl, Other":12人の英アフリカ系女性(とLGBT)の人生を描く

          本作は、前に言及したMargaret AtwoodのThe Testamentsと同時に2019年ブッカー賞を受賞。まだ和訳はされておらず、その主題(イギリスの黒人女性やLGBTの物語)も踏まえると、実際和訳もされるのか微妙なところではあるが、立場の違う私にも興味深く読めるものだった。 物語の全体の構成は、①アフリカ系で、②生物学的には女性の出自であり(タイトルの女性、少女、それ以外というMECEな表現が表しているように、LGBTも含まれている)③イギリスで生活をしている、

          小説"Woman, Girl, Other":12人の英アフリカ系女性(とLGBT)の人生を描く