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「学び続けるIT企業」のつくり方 ── Life is Techに学ぶ「学習体験」を深める仕掛け
先日、当社のエンジニアリングメンター室が取締役向けに2025年度の施策として考えていることを報告してくれたのですが、内容としてかなり面白くて、わくわくしながら話を聞かせてもらいました。詳細は省きますが、印象的なキーワードとして「学習体験」「暗黙知」「SECIモデル」などがありました。
「学習体験」と言えば、私の娘が受講してファンになったLife is Techがすごいと思っています。受講後に娘がキラキラした顔でいかに楽しかったかを語っていたので、そこには何かがあると思っていたのですが、昨年にLife is Techの幹部の方と直接お話しをする機会に恵まれました。そこで「学習体験向上」についての徹底的な組織的取り組みについてお話しいただいて、大変感銘を受けました。また、「SECIモデル」については10数年前に知識創造理論を大学院で学び、今に至るまで強い影響を受けていました。
こういう背景もあってこのテーマに強い興味と関心があるので、エンジニアリングメンター室の話にインスパイアされて、彼らのコンセプトを私なりにアレンジをしたアイデアを考えてみました。
この記事においては、中高生向けプログラミング教育で定評のあるLife is Techが持つ独特の“学習体験”に注目し、企業内に取り込んで定着させるためにはSECIモデルが有効という仮説を立て、それをエーピーコミュニケーションズ(以下APC)の人材育成へどう活かせるかを考えます。
いま掲げているAPC 2030ビジョンのコンセプトは「異彩を放つ」組織を目指す、です。単に高い技術力を誇るだけではなく、大手SIerを真似するだけでもなく、社員一人ひとりが多様な個性と才能を発揮、あるいは、桁違いの凡事徹底をするなど、他社とは圧倒的に違う色合いを持つ会社であり続ける ―― そんな理念を追求するうえで、Life is Techのカリキュラムやメンター制度にはたくさんの示唆があると考えています。
Life is Techの最大の特徴は、「子どもたちが学ぶことにワクワクして自然と没頭する仕掛け」を豊富に取り入れている点。そこにはゲーミフィケーションやアウトプット重視など、多くの要素が組み合わさって“異彩”を放つ教育モデルになっています。
一方、APCでもAPアカデミーや勉強会文化に加え、エンジニアリングメンター室を擁しており、学習を応援する素地は十分にあると考えています。しかし、せっかくの「いい雰囲気」が仕組み化・言語化されておらず、学習カルチャーをさらに強化する余地があるのも事実です。そこで、今回のテーマである“Life is Tech流のエッセンス”を組み合わせ、「社員の学びと個性が融合し、唯一無二の組織へ進化していくシナリオ」を描いてみたいと思います。
1. Life is Techが「異彩」を放つ理由:学習=楽しい体験へのこだわり
1-1. ゲーミフィケーションが生む没入感
Life is Techでは、プログラミングを“エンターテインメント的に学ぶ”ことに重きを置いています。オンライン教材にキャラクターやストーリー性を加え、ステージクリア型のミッションを用意することで、中高生が「もっとやりたい!」と自然に没頭できるのが特徴です。
このワクワク感は、ただ単にスキルを教え込むのではなく、「学びのモチベーション」を継続的に引き出すための工夫でもあり、結果的に他の教育サービスとは違う“異彩”を放つ大きな要因となっています。
1-2. 大学生メンターが寄り添う伴走型の学び
もう一つの特徴が、年齢の近い大学生メンターによるマンツーマン指導です。メンターはただプログラミングが得意なだけでなく、Life is Tech独自の研修でコーチングスキルをしっかり学んだ存在。中高生にとっては先輩的な存在であり、失敗やつまずきへの不安を取り除いてくれます。
「先生」でも「同級生」でもない絶妙な距離感だからこそ生まれる安心感は、学びに挑戦するハードルを下げ、子どもたちの個性や独創性を伸ばす土台となっているのです。
1-3. プロジェクトベース学習(PBL)+アウトプット
Life is Techでは、キャンプやスクールの終盤に自分だけの作品を発表する流れが必ず用意されています。単なる座学に終わらず、必ず手を動かして何かを“作る”体験を組み込むことで、学習に目的と達成感が生まれます。
この「自分のアイデアを形にする」というスタイルこそ、“異彩を放つ”学びの重要なエッセンスなのでは。人は好きなものに打ち込むとき、本来の力以上のものを発揮することが多いと思います。Life is Techはこの本質をカリキュラムに上手く組み込み、アウトプットを前提にした学習を確立しています。
1-4. 仲間と高め合うコミュニティ
合宿形式のキャンプでは、同世代の仲間と朝から晩まで開発に没頭し、お互いを刺激し合う空気が生まれます。「誰かがすごい作品を作っているのを見て、自分も燃える」というポジティブな競争心や、協力しながら乗り越える一体感が、中高生の学習意欲を大いに引き出しています。
こうした“コミュニティで楽しむ”要素は、学びをより深く、楽しいものに変える大切な鍵と言えるでしょう。
2. エーピーコミュニケーションズの強み:異彩を放つための土台はすでにある
2-1. APアカデミー:体系的な学習機会
APCの「APアカデミー」は、クラウドやインフラ技術からマネジメント領域まで幅広いプログラムを取り揃えた企業内大学です。ここまで充実した社内研修体制を持つ企業は珍しく、学びたい社員にとって貴重なリソースとなっています。
ただし、目指すのはあくまで“異彩を放つ組織”。研修の種類と数が多いことで誉められていた時代は終わりました。研修を受けただけで終わるのではなく、個々人が自分の個性や得意領域をさらに伸ばし、新たなイノベーションを生み出すところまで踏み込めるかがカギです。
2-2. 勉強会文化と技術ブログのアウトプット風土
APCのエンジニアは勉強会やブログ執筆など、自主的なアウトプット活動が盛んな点で評価されています。年間600本もの技術ブログが投稿されるのはIT企業の中でもかなり多いほうだと思います。
ボトムアップの学習コミュニティがあるということは、「何かをやってみたい」と思ったときに集まれる仲間がいる、ということでもあります。これは人材が“異彩”を発揮するための素地として非常に心強い財産だと言えます。
2-3. エンジニアリングメンター室:個を支えるハブ的存在
APCには、エンジニアリングメンター室という部署があり、社員の学習や情報発信を支援する役割を担っています。
まるでLife is Techの「大学生メンター」のように、学びたい・発信したいというエンジニアの背中を押し、ノウハウを共有する仕組みを作ろうとしているのです。
本来であれば、こうした組織が全面的に機能することで、誰しもが自分の強みを活かし“異彩”を放てるようになるはず。しかし、限られた人数・全員が兼任で運営していることもあり、現状ではまだ組織的な仕組み化や言語化が十分でなく、属人的に頑張っている面もあります。ここをどう組織全体でサポートし、さらに活性化させるかが今後のポイントだと考えています。
3. SECIモデルで「学習×個性」を仕組み化する
APCの強みをさらに伸ばし、社員それぞれの持つ色彩が混ざり合って「異彩を放つ組織」を実現するには、SECIモデルが有効なのではないかと考えています。SECIモデルでは、暗黙知と形式知を循環させ、組織が絶えず学習・進化していくプロセスを大きく4つに分けて考えます。これをAPCに当てはめる例えばの案としては、以下のようなものが考えられます(まだ関係者と実現可能性について話していないので、あくまでもアイデア案です)。
3-1. 共同化(Socialization)の案
バディやメンターによる直接的なノウハウ共有
Life is Techの大学生メンターにならい、APCでもエンジニアリングメンター室を中心に「年齢やスキルの近いメンター」を明確に配置。社員同士が日々のOJTやペアプロで暗黙知を交換し合える環境を整える。また、新人や若手には年次の近い中堅社員をメンター/バディとして正式に割り当て、日常的な相談・指導を通じて先輩の知見を吸収できるよう仕組み化します。
Life is Techが大学生メンター制度で「斜め上の関係」を構築したように、APCでも年齢や立場の近いメンターからの支援を受けやすい環境を作り、暗黙知の伝承を円滑にします。
合宿やハッカソン形式で、“楽しさ”を掛け合わせる
既存の勉強会文化に加え、定期的に合宿形式や集中ワークショップを導入することで、組織全体のモチベーションを引き上げ、「学び=楽しい」体験として周知させる。
3-2. 表出化(Externalization)の案
暗黙知を言葉やドキュメントに落とし込む
プロジェクト終了時には必ず振り返りレポートを作成し、得た知見や失敗談を明確化。特定の部署がこれを取りまとめ、社内へ公開する仕組みを作ります。また、技術ブログ執筆やQiita投稿などのアウトプット活動を評価制度に組み込み奨励します。
ゲーミフィケーションでアウトプットを促す
勉強会の開催やブログ投稿にポイントやバッジを付与するなど、Life is Techが重視している“ゲーム性”を加えることで、「一度やってみようかな?」と社員が踏み出しやすいきっかけをつくります。
3-3. 連結化(Combination)の案
社内ナレッジプラットフォームで情報を結びつける
バラバラの勉強会資料やブログ記事、プロジェクトレポートをカテゴリー別にまとめ、必要なときに検索・参照しやすい状態に。APアカデミーの講座開発にもフィードバックして、より実践的な研修カリキュラムを更新します。
APアカデミーの研修カリキュラムにフィードバックループを設け、現場から吸い上げた最新知見を講座内容に反映させます。Life is Techが社内研究チームと現役プロ講師陣の知見でカリキュラムを常にアップデートしているように、APCも人材育成担当と現場トップエンジニアが連携し、自社ならではのベストプラクティス集やケーススタディ教材を作成します。
異彩を放つ“応用事例”を積極的に共有
普通では思いつかないようなアイデアや、個性的なアプローチで成功した事例を積極的に拾い上げ、社内発表や表彰を行います。個人のユニークなアイデアが全社的なヒントになる仕組みを作れば、社員の個性がより発揮されるはずです。
3-4. 内面化(Internalization)の案
習得した知識を実務へすぐ反映するサイクル
研修や勉強会で学んだことを、プロジェクトで試せる「実験枠」を意図的に設定します。失敗しても責められず、むしろ奨励される文化を根付かせることで、挑戦が当たり前になる。
例えば、研修受講後に現場で関連タスクに挑戦する「研修→実践セット制度」を設け、学んだ内容をすぐ試せるプロジェクトにアサインする仕組みを作ります。実務での成功・失敗を再度振り返り共有することで、新たな暗黙知が生まれ、再び共同化へと循環します。
上司やメンターによる継続フォロー
定期的に上司やメンターと1on1を行い、「最近どんな発見があった?」「次は何にトライしたい?」を話す機会を持つ。そこから再び共同化へと循環し、学びが深まり続けます。
4. Life is Techのエッセンスを活かして「異彩を放つ組織」へアップデートするポイント
4-1. メンター制度
Life is Techのメンター研修では、「生徒を上手に導くためのコーチングスキル」や「心理的安全性をどう担保するか」を重視します。APCでも、エンジニアによるメンター育成を人材育成の中核として位置づけ、社員に向けた“指導スキル研修”を体系化できるとよいと思います。
誰かに教える過程で、自身の暗黙知を言語化でき、個々のエンジニアがより際立った存在へ成長していくチャンスにもなります。
4-2. ゲーミフィケーションで個性を伸ばす仕掛け
Life is Techの教材がワクワクを引き出すように、APCでもアウトプット活動をゲーム化してみると、普段は目立たないタイプの社員も「やってみるか!」と一歩踏み出すきっかけになります。
たとえば「●●講座修了バッジ」「●●資格取得バッジ」「ブログ連続投稿記念バッジ」などを発行し、社内ポータルでランキング表示するなど、遊び心のある演出をすることで、社員それぞれの個性や才能が自然と可視化されるでしょう。
4-3. 定期発表会・ハッカソンで“異彩”を披露
Life is Techのキャンプ最終日には必ず作品発表があります。APCでも、たとえば半年に一度ハッカソンや成果発表会を開き、各チーム・個人が作ったものを披露する文化を定着させるのはどうだろうか。
この“発表の場”こそ、個々のエンジニアが異彩を放つ瞬間。普段の業務とは関係ない領域にチャレンジする社員が出てきたり、全く新しい技術やサービスのアイデアが出てきたりするなど、組織の多様性と創造性が一気に花開くはず。
4-4. コミュニティデザインで多彩な色を引き出す
Life is Techが合宿形式でコミュニティを育てるように、APCでもテーマ別コミュニティを増やす、あるいは合宿やワークショップ形式のイベントを意図的に企画すると、“部活感覚”で学べる場が拡大します。既存のAP Tech Talkや勉強会を発展させ、オンライン・オフライン双方でテーマ別のコミュニティを形成します。実例として、NW自動化に関しては既にコミュニティが存在していて、積極的に全社に情報展開もしてくれています。
他のテーマでも、支援部門がコミュニティ立ち上げを積極的に支援し、「こんなテーマで集まりたいんだけど?」と相談すればすぐにノウハウをもらえる体制があると、社員一人ひとりの興味が自然に組織全体の学びへと繋がります。
5. まとめ:「学び」を通じて社員の個性が輝き、唯一無二の組織へ
Life is Techが生み出す学習体験は、「みんな同じゴールを目指す」のではなく、「それぞれが自分のやりたいことに熱中し、その結果として成長していく」というスタイルが大きな魅力。その“楽しむ×個性を伸ばす”アプローチが、他にはない教育サービスとして際立っています。
エーピーコミュニケーションズが目指す“異彩を放つ組織”も、同じ考え方に通じる部分が多いはずです。一人ひとりが輝くことで組織全体がキラキラと多彩な色を放ち、新しいアイデアやプロダクトが次々と生まれる。これこそが、他社にはない個性を打ち出すための源泉ではないでしょうか。
エンジニアのメンターがLife is Techのメンター研修のように組織をサポートし、
ゲーミフィケーションやプロジェクトベースのアウトプットを取り入れて「学び=楽しい」体験を加速させ、
多様なコミュニティとナレッジプラットフォームによって、個々人のユニークなアイデアや才能を組織全体に広げる。
こうした仕組みづくりをSECIモデルの観点から実践していけば、APCの強みである学習文化はさらに洗練され、唯一無二の“異彩”を放つ会社へと進化していくでしょう。
もしこの記事を読んで、「うちの会社も似たような課題がある」「学習体験の要素を取り入れてみたい!」と思った方がいらっしゃれば、ぜひコメントなどでご意見をお寄せください。みんなで学び合い、互いの取り組みを共有していくことが、どの会社にもない新しい価値を生み出す近道になるかもしれません。
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