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プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#2 【叡智の姫君】 3
「なるほど」
チャーミング・フィールドに降り立ったタンザナは、周囲を確認すると静かに独りごちた。彼女の周りには、本棚の列が放射状に広がっていた。すべてを見渡せるわけではないが、おそらく相当な冊数の本が納められていることだろう。察するに、ここは図書館に違いない。
「しかし……先程までも図書館にいたはずでは? もしや……うっかりフィールドに入り損ねたとか?」
「そんなわけないでしょう?」
独り言に答える背後からの声を聞き、タンザナは素早く振り返った。すると、インカローズが剣を構えているのが見えた。
「ここは私のチャーミング・フィールドよ。見たところ、私の城の図書館に似せているみたいね」
そう言うと、インカローズは上を指差した。ガラス張りの天窓から、柔らかな光が注ぎ込んでいた。先程までの図書館ではなかった光景だ。
「そうですか。何だかんだ言ってもしっかりフィールドには入れていたということですね。さすがは私」
タンザナはインカローズの説明を聞きながら、自らを称賛しつつ、油断なく剣を構えてインカローズに対峙した。
「なるほどって……本当に分かってる?」
「本当は分かっていません。また、そもそも図書館がどうかなどとどうでもいいことです」
タンザナは妖艶に微笑んだ。
「このフィールドはプリンセス同士で闘うための空間。それが一番肝要な事実であるはずです」
「なるほど……」
今度は、インカローズがタンザナの言葉に頷いた。
「確かに一理あるわね。私は何かを知らないままでいるのには耐えられないけど……今はその時じゃないのかもしれない」
お互いにあやふやな言葉や理知的な意見を交わし合いながら、両者は見つめ合い、相手の隙をつく機会、あるいは単に斬りかかるきっかけを伺う。
「ウォンバットさん!」
痺れを切らし、先に動いたのはタンザナだった。彼女が剣を打ち振るうと、刃の先から光が飛び出し、四足歩行の毛むくじゃらの生物となって現出した。
「ウォン」
「……あらカワイイ」
タンザナの初動と共にバックステップを踏んで間合いを取っていたインカローズだったが、予想外に愛らしい生物を視認すると、構えを保ったまま呟いた。
「でもおかしいわね。ウォンバットの鳴き声はそんな声じゃないはずよ」
「ウォンと鳴きながらバッと襲いかかることから、ウォンバットと名付けられたのです。そうですよね、ウォンちゃん!」
「ウォン!」
ウォンバットはタンザナに同意するかのように頷くと、勢い良くインカローズに向かって飛びかかった。
「……そういうことね。理解したわ!」
タンザナの勝手な解釈を流しつつ、インカローズは大きく踏み込みながら、聖剣を横薙ぎに振るった。すると、剣の先から突風が吹きすさび、ウォンバットを迎え撃った。
「ウォン」
ウォンバットはあっさりとその風に呑まれ、空中へと投げ出された。
「ウォンちゃん!」
タンザナがウォンバットを受け止めようと手を伸ばしたが、ウォンバットはそのまま本棚に激突し、床の上に墜落した。衝撃で起きた本の雪崩に呑まれ、ウォンバットの姿は光に戻りながら消滅した。
「おのれ、なんと卑劣な真似を!」
「貴女が襲わせたんでしょう!」
憤るタンザナに言い返しながら、インカローズがすかさず追撃の斬撃波を放った。
「てえいっ!」
タンザナはこれを自らの斬撃波で相殺すると、再度剣を空に打ち振るった。
「トラさん!」
「グルアーッ!!」
叫びと共に描かれた軌跡から、今度は大きなトラが飛び出し、間髪入れずにインカローズへと牙を向いた。
「ちっ……」
インカローズはこれに対応し、追撃のモーションを強引に止めて踏ん張ると、その場で剣を水平に構えながら回転した。すると、彼女の体を中心として竜巻じみた突風が発生した。
「ガアーッ!」
トラはその風に弾き飛ばされ、ウォンバット同様に本棚へと激突した。再び棚から本が崩れ落ち、トラの体が光と消える。
「くっ、ウォンちゃんだけでなくトラさんまでも……」
罪なきトラの身に起きた悲劇に憤りながらも、タンザナは冷静に竜巻が収まるのを待った。やがてインカローズの回転が終わった。タンザナはその隙を突こうとしたが、油断なく構えるインカローズの姿を見て踏み留まり、両者は再びの膠着状態に陥った。
「なかなか厄介な能力を持つ聖剣ですね。ズルですか?」
「私の聖剣は風のエレメントの力を持っているのよ。多分、ズルじゃないと思うわ」
「なるほど」
口とは裏腹に納得していない様子のタンザナに、インカローズは反論した。
「貴女のほうこそ、随分と卑怯じゃない? 動物を召喚して数で攻めるなんてフェアじゃないわ」
「なるほど。そういう見方もあるかもしれませんね」
タンザナはこの反論にあっさりと納得した。
「では、お互い卑怯者同士、遠慮なくいくとしましょうか」
「……ええ、そうね。そのほうが面白そう」
2人はお互いに睨み合いながら、口元だけを緩めて笑った。
続く
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