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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #2 【ヴァンパイアハンター】 5
「ここは……?」
気がつくと、カーネリアは見知らぬ民家の屋根の上に立っていた。上空は厚い雲に覆われ、陰鬱な空気が辺りに広がる。
「……いつの間にこんなところに?」
カーネリアは慎重に屋根の上を歩き、縁から地上を見下ろした。地上までは平屋程度の高さしか離れておらず、彼女がそれまでいた巨大な屋敷の屋根から見えるであろう風景とは似ても似つかない。眼下に広がる狭い路地も、まるで見覚えのないものだ。
「……何かの魔術のせいかな?」
何らかの手がかりを得ようと、カーネリアはおもむろに自らの体を確認した。すると、ここにも予想外の事態が起きていた。
「……服が……変わってる?」
いつの間にか、彼女は肌触りの良い真っ白な服を着ていた。背中には長いマントが翻り、まるで自分が騎士になったかのようだ。時代錯誤の感すらある衣装で、彼女はこのような格好などしたことがない。
「……これは何かおかしなことが起きてるね」
「へえ、なかなか飲み込みが早いじゃないか」
半ば呆れ気味に呟いた時、不意にどこからか声が聞こえてきた。その直後、カーネリアの前に、彼女と似たような服装の女性が悠然と降り立った。
「大したもんだよ。歳の割には洞察力ってヤツがある」
「ジェダイト……だよね? あなたもここに来ていたの? 他の人たちは?」
「来てないよ。残念ながらね」
ジェダイトはそう答えると、妖艶に笑いながら腰から剣を抜き、体の正面に構えて臨戦態勢に入った。
「一人で寂しいかい?」
「……別に」
挑発するジェダイトに応えるようにして、カーネリアは左腕を打ち振るった。すると、腕に装着されていた十字架のアクセサリーから剣の刃が飛び出す。
「さっきもちらっと見たけどさ、アンタの聖剣は面白い形してるよな。カッコいいと思うぞ」
「嬉しいこと言ってくれるね」
言葉とは裏腹に、カーネリアの口調は淡々としていた。その視線はジェダイトの剣を捉え、攻撃のタイミングを計る。
「……随分とやる気だな。ここがどこかとか、他の奴らがどこにいるのかとか、もう少し聞きたいことはないのかい?」
「どうでもいいよ。どうせ適当なことしか教えてくれないんでしょ? あなたが嘘をつく可能性もあるし、だったら聞くだけ無駄」
「そいつは……結構痛いところを突いてくるね」
ジェダイトはそう言うと、自嘲気味に笑ってみせた。
「それでも、知っておいたほうがいいことはあると思うけどな。まあ、どうでもいいか。結局、今大事なのは……闘って勝つことさ!」
口火を切るような叫び声と共に、ジェダイトは大きく足を踏み込み、聖剣を虚空に突き刺した。すると、刃の先から細い光の筋が飛び出し、カーネリアに襲い掛かる。
「セヤッ!」
カーネリアは掛け声と共に高く跳躍してその斬撃波を躱した。そのまま勢いを利用し、空中前転を決めながら反撃の飛び蹴りを繰り出す。
「ちっ!」
それに反応し、ジェダイトは突き出した聖剣を引くと、真横に構えて蹴りを受け止めた。その刃の上に、カーネリアが流麗に着地する。
「やあっ!」
カーネリアは刃を踏みつけて反動を受けると、バック宙を繰り出して着地した。
「ハッ!」
そのまま地面を蹴った勢いを乗せ、ジェダイトの腹目掛けて肘打ちを見舞う。
「ぐあっ!」
肘打ちが直撃し、ジェダイトが口から唾を吐いた。衝撃に耐えきれず、足下がふらつく。
「セヤーッ!」
カーネリアはその隙を逃さず、右足を大きく振り上げながら頭部への回し蹴りを放ち、ジェダイトのダウンを奪いにかかる。
「……ふざけんなよ!」
ジェダイトはそれを許さず、すかさず剣を発光させた。至近距離から斬撃波が飛び出し、カーネリアへと襲い掛かる。
「ぐうっ!」
斬撃波が直撃し、カーネリアの体は大きく後方へと吹き飛ばされた。ジェダイトはこの間合いを利用し、体勢を整えようと剣を構え直す。
「セヤーッ!」
だがカーネリアはその隙を与えず、着地後に間髪入れずに駆け出した。ジェダイトとの間合いを一気に詰め、剣の装着された左腕を振りかぶる。
「忙しいねえ……ったく!」
ジェダイトはそれを迎え撃つべく、剣を横に一閃した。刃の先から斬撃波が飛び出し、カーネリアを捉えにかかる。
「ハアッ!」
カーネリアは既に振り上げていた左腕と共に右腕も上げると、そのまま倒立前転に移行して斬撃波を躱した。さらに側転を挟んでから、さらにバック転を六連続で繰り出し、一気にジェダイトに急接近する。
「なんだとっ!?」
「ヤーッ!」
カーネリアは驚愕するジェダイトの鼻先で僅かに空中へと飛び上がると、体を横に回転させた。遠心力を右足に集中させたローリングソバットが、空間を切り裂くようにして襲い掛かる。
「グアーッ!」
バック転の勢いも上乗せされた強烈な蹴りを受け、ジェダイトは体をくの字に曲げながら凄まじい勢いで吹き飛んでいった。そのまま屋根から落ちるかと思われたが、ギリギリのところで着地すると、足を滑らせながらもなんとか踏みとどまる。
「クソ……どうやって使うんだ、コイツ……さっきから……斬撃波しか!」
ジェダイトは悪態を吐きながら、自暴自棄気味に聖剣を宙に振るった。すると、そこに空中から斬りかかっていたカーネリアの刃が過たず衝突する。
「アンタ! さっきから忙しないね! 息つく間もありゃしない!」
当たり散らすように喚きながら、ジェダイトは刃に体重をかけてきたカーネリアを弾き飛ばした。
「そっちから仕掛けてきといてよく言うよ!」
カーネリアは弾かれながら空中で叫び返した直後、両手で体を支えるようにして地面に着地した。そこから間髪入れずにスプリングじみて跳ね上がり、空中できりもみ回転を加えながら、体全体を使ったアクロバティックな斬撃を繰り出す。
「くっ……」
ジェダイトは今一度カーネリアの剣を迎え撃つべく、剣を振ろうとした。だが、先程カーネリアを弾いた勢いが付いており、防御が間に合わない。
「ハアーッ!」
無防備なジェダイトの体を、カーネリアの剣が容赦なく袈裟斬りに斬り裂いた。
「ぐあーっ!!」
ジェダイトの叫びが痛烈な叫び声が、斬撃のダメージの大きさを物語る。だがカーネリアは抜け目なくバックステップで間合いを取り、反撃に備えた。
「ぐ……ぐうっ……アンタ……本気かい?」
しかし、体を正面から一閃されたジェダイトには反撃の余裕などなく、剣を杖のように突いて倒れないようにするのがやっとだった。肩で息をしながら苦痛に顔を歪め、息絶え絶えに虚ろな声を漏らす。
「……そうか。それで、つまり……そういうことか」
「……?」
この空間にやってくる直前と同様に、カーネリアにはその言葉の意味が分からなかった。彼女が眉をしかめると、ジェダイトは僅かに口元を緩める。
「……やっぱり話を聞いておくべきだったかもしれないね、お嬢ちゃん」
「……何が?」
「……なに、こっちの……話さ……」
意味深な言葉を呟いた後、体を支える力も失ったジェダイトは、その場に倒れ込んだ。その直後、眩い光が辺りに広がり始め、カーネリアとジェダイトの姿を包み込んでいき、闘いの終わりを告げた。
続く
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