インカローズの苛立ち
インカローズは怒っていた。彼女は精神に乱れを感じると城の図書館に籠るのだが、今回はむしろこの図書館が原因だった。彼女は部屋の中央にある机に備えられた椅子に腰掛けながら、恨めしそうにガラス張りの天井を見上げている。柔らかな日差しが降り注ぐこの場所は、図書館の中でも一番のお気に入りだ。最近はそこにある変化が生じ、彼女にとってより特別な場所になっていた。そのはずだったのだが――
「一体どうなってるのよ!」
怒りがついに口を突き、インカローズは天井に向かって吠えた。知性派で知られる彼女にしてみればらしくない行動だったが、インカローズにはそうするだけの根拠があった。それを証明するかのように、天井から差し込む光の中から、何かがひらひらと舞い降りてきた。
「来た!」
降りてきたのは一枚の羊皮紙だった。インカローズはそれを見て歓喜の声を上げたが、次の瞬間には怪訝そうに顔をしかめた。そして導かれるようにして手の中に収まった羊皮紙の文章を、彼女は一息に読み上げた。
「『今週のプリンセス・クルセイドはお休みです』……ああ、もう……」
インカローズは深くため息を吐いた。この数日、このような羊皮紙がどこからともなく舞い降りてくるようになった。羊皮紙には興味津々の内容が書かれており、舞い降りてくる間隔にも一定の法則があるように感じられたが、ここ数回はその間隔が安定せず、それが彼女の心をやきもきさせていた。
「こうなったら……私も……」
インカローズは何かを決断したように呟くと、図書館の入口へと視線を走らせた。そうしてしばらく沈思黙考すると、今度はもう一度天井を見上げた。空からは、相も変わらず眩しいばかりの日光が差し込んでいる。
「……もう少し、待ってみようか」
その光を見て気が変わったのか、彼女は机の上に片腕で頬杖を突き、もう片方の腕で羊皮紙を掴みながらもう一度内容を読み直した。
「『今週のプリンセス・クルセイドはお休みです』……」