2018年6月の記事一覧
プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #1 【鍛冶屋の娘と王子様】 4
アキレアは胃が錨に引っ張られて水底に沈められるような感覚を覚えていた。その理由は、アンバーたちに振る舞ったディナーを自分も調子に乗って楽しみすぎたから――ではなく、謂わば自責の念からだ。
王子の姿では初めて顔を合わせるということをすっかり忘れ、メノウとしての心持ちでアンバーに接してしまった。結果は大失敗だ。王子としてだけでなく、人として無礼極まりない態度に見えたことだろう。ことによると、正体が
プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #1 【鍛冶屋の娘と王子様】 3
城の応接室に通されたアンバーは、どこか居心地の悪さを感じていた。座っている椅子はフカフカで快適だ。目の前の円形テーブルもきらびやかに飾られてはいるものの、決して華美にすぎるものではない。部屋の片隅から聞こえてくるバイオリンは穏やかな音色を奏でる。恐れることなど何もないはずだ。だがそれでも、落ち着かないものは落ち着かない。
「……アンバーさん」
「はいっ!」
突然後ろから声をかけられ、アン
プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #1 【鍛冶屋の娘と王子様】 2
ウィガーリーの王都エアリッタの職人街にある鍛冶屋の応接室で、一人の魔術師が魔術を行使している。その様子を、店の一人娘であるアンバーは固唾を飲んで見守っていた。
「……」
魔術師が無言のまま相対しているのは、この鍛冶屋の主、ロベルト・スミスの閉じ込められたクリスタルだ。
「……どうですか?」
アンバーが背中から不安げに尋ねると、魔術師は振り向いて首を振った。
「……やはり、ダメですね
プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #1 【鍛冶屋の娘と王子様】 1
自室にある長い鏡の前で、アキレア・シュワーブ王子は呼吸を整えていた。別に激しい運動をしたわけではない。体も健康そのものだ。だが何か得体の知れない感情が胸の鼓動を早め、それが彼の息を荒くしていた。
(なんとか……落ち着かなければ)
アキレアは気を紛らわせるかのようにして身に着けている衣装を再度確認した。今着ているのは面会用の服で、普段着よりも煌びやかな装飾品で彩られている。こんなものを毎日着