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プリンセス・クルセイド

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王子の結婚相手を決めるため、少女たちは剣を取る。剣と魔術で闘うファンタジーです。
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2017年12月の記事一覧

プリンセス・クルセイド #6 【悪意の足音】 2

 ウィガーリーの王都エアリッタの郊外に、大きな屋敷が一軒建っている。屋敷は年月を経て十二分に古びており、周りを囲う石垣は所々で崩れている。しかしそれでも、その外観には気品が溢れ、木々がうっそうと生い茂る周囲の風景に不釣り合いな程だ。

 それほどの屋敷が、なぜ誰の手も入れられずに朽ち果てるのを待っているのか。また、誰も関心を払わないならば、なぜ今すぐに取り壊してしまわないのか。それを知るのは王都で

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プリンセス・クルセイド #6 【悪意の足音】 1

 ウィガーリー国王都のエアリッタ中心部にあるエアリッタ城。その玉座の間の中央に置かれた台座の上に、水晶玉がひとつ。その後方には、白く巨大な正方形のスクリーンが浮かんでいる。台座を挟んだ反対側には、煌びやかな衣服を身に纏った黒髪の青年が腰掛けている。彼の名はアキレア・シュワーヴ。彼は両脇に男性の従者を従わせながら、その茶色の瞳をスクリーンへと注いでいた。

 王子から見て右手に立つ男は長い杖を手にし

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プリンセス・クルセイド #5 【魅惑のプリンセス】 5

 焼きたてのバタートーストの香りが鼻をくすぐる。その誘惑に半ば負けるようにして、アンバーはパンを口に運んだ。じっくり味わうように咀嚼した後、呑み込んでからため息交じりに呟く

「……心配だなあ」

「私達にはどうしようもないことだ。待っているしかないだろう」

 テーブル席の向かいに座るメノウが、彼女の呟きに答えた。

「そうそう、腹が減っては食事もできぬってね。じゃんじゃん食べていいからね」

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プリンセス・クルセイド #5 【魅惑のプリンセス】 4

 自分でも少しうんざりするようなきついアルコールの匂いを発しながら、ラリアは古びた屋敷の廊下に立っていた。

「なんだぁ……ここは」

 まだ酒が残っているのか、はたまた酒が足りないのかと、ラリアは頭を振り、ここまでの記憶を辿る。

「あぁ……そうだった。プリンセス・クルセイド? あれをやってるんだったぁ……」

 ラリアは虚ろな目で辺りを見回した。赤い絨毯が敷き詰められた広い廊下の脇に、等間隔で

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