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読了のおっさん40 新九郎、奔る! (ゆうきまさみ/ビッグコミックススペシャル)
今日も、おっさんが全巻読んで面白かった漫画をご紹介です。
個人の感想であり、感じ方はそれぞれなれどご参考に。
概要的なネタバレは含みます。
新九郎、奔る!(ゆうきまさみ/ビッグコミックススペシャル)
2018年~2 17巻(2024年12月現在)
■ タイプやテーマなど
歴史モノ、応仁の乱、戦国時代、室町幕府、伊勢一門、北条早雲、
交渉、権謀術数、コメディ風、お家
■ 簡単な内容
主人公、伊勢新九郎(後の北条早雲)は、備前守伊勢盛定の庶子として生まれる。父の正室の下で実子同様に育てられるも、どこか本家を慮る節があり、幼少期より真面目で細やかな人物であった。
応仁の乱直前(1460年代)期より物語はスタートし、将軍家は足利義政の時代。将軍の弟である足利義視との家督争いや、山名家と細川家の勢力争いに巻き込まれる中、少しでも伊勢家の役に立ちたいと早期の元服を願い、兄の死や伊勢家の盛衰に伴い、目まぐるしく変化していく時代を文字通り、西へ、東へと奔り回る。
■ 読みどころ
戦国時代の発端とも考えられる応仁の乱からのスタートは、同時代が好きな歴史愛好家からもワクワクするタイミングになると思う。
時代背景としては非常に緊張感が漂っており、戦乱も政争も尽きなかったところだが、キャラクターの描かれ方や、時折さしはさまれる、現代風の言葉やギャグなどで、コメディ風に仕上がっているため読みやすい。
戦いのシーンばかりではなく、家臣や領民との対話シーン、家族との対話シーン、恋愛描写や同じ戦いでも交渉や謀略と言った、政治面での戦いのシーンがかなり手厚い。
■ 雑多な感想
勧善懲悪にしない。軽妙なギャグ表現。本名を呼ばない。これら3つを作者が意識して描かれており、中立な立場で俯瞰して歴史を見ることができ、重い時代背景でも軽快に読み進められる。そして名前よりも立場や位階などを意識できる(意識すべきという当時の習いの雰囲気も含めて)。
この縛りが実に巧妙で、テキスト量が多くても、人物の確認に時間がかかっても、世界観に浸り、続きの展開が楽しくなる作風になっている。
殊、時代劇風や大河風の歴史モノは、堅苦しく、主人公サイドが正義であり、かつその目線で描かれている場合が多いのだが、本作はやや斬新である。かといって特異ではなく、現代ドラマのような軽快さがむしろ親しみ易さとなっており、それでいて王道的歴史モノの側面も十分残している。
具体的な作品名は挙げないが、重苦しい雰囲気と感情の錯綜、恵まれない動乱の時代で強い芯を以って成長していくといった展開は、読みごたえはあってもせいぜい10巻辺りで、読者としては息切れを感じる場面も多々ある。しかしながら本作は15巻を超えても毎週追いたくなる塩梅だ。
■ その他
作者はパトレイバーで有名な、ゆうきまさみ先生。個人的には公務員モノはゆうき先生が好きであるが、本作でもその良さが出ているように思う。
足利将軍家に仕え、侍として行政を取りまとめ、領民と折り合いながら領地の経営をし、公家や有力者ともかかわりを持ち、立場が挙がってくると強い政治手腕が問われる。
そうした現代の公僕となんとも似たようなところが多々あり、多くはその面倒くさくて儀礼的なやり取りなどを、軽妙なコメディで表現している。
また物語を読むうえで、登場人物たちの「お家」を意識する部分が、やはり武家には多いと改めて認識せずにはいられない。
現代劇であれば、個性あふれる「他人」どうしが、友情や愛、同じ目的や理想などで団結していく物語になるが、時代劇の中心はやはり「お家」である。
親戚関係、血筋が様々な謀略や動乱の諸元として扱われており、それに次ぐのは御恩と奉公という所謂武家の習わしといった具合である。
価値観が多様化する現代と比べると、そこはある意味単純ではあるが、誰が誰の子で、どこに嫁いで、かつてこのような関係と経緯で、故に現状はどっちに着くか、どう判断してどう動くか。。。追いかけてみると複雑怪奇。何に重きを置くか、勧善懲悪を狙ってもかえって難しい感じもするが、故にそこが読み応えにもつながる。
話は全く変わるが、おっさんはコミックスの表紙もとても好きである。最近のコミック本はデザインが凝っているものが多くてみんな好きだが、本作は豪奢ながらもほっとする。やっぱりゆうき先生の絵のタッチだろうか。勧善懲悪ではない歴史ものとしてのマイルドさだろうか。つい買い揃えたくなる。
表紙絵も含めて、書店でも是非、直接ご覧いただきたい。