家族伝説〜車から突き落とした編〜
うちの母が亡くなった夜、解散した家族・親戚一同が集結した。
木村の名を捨てどこかに養子入りした彫り師の弟、浮気をして家を出た格闘家の父(リングネーム:アル中パンチドランカー木村)、「夜になると若者たちがお尻の穴を責めてくる…責められるとしばらく立ち上がれないんよ…」と毎夜、阿鼻叫喚のおばあちゃん(認知症)。
めちゃくちゃな父と母を反面教師にして育ったため、とてもしっかりしている叔母たち。
最後に長男の僕。
久しぶりに家族が再結成したものの、有難い事に通夜に多くの方々が足を運んでくれた為、まともに話をすることもなく一旦、活動休止だと各々家に帰っていった。
僕と父は線香番として残ることにした。
小さい頃に離婚したからか、今でも僕は父のことをパパと呼んでいる。そんなパパは、母の顔を黙って眺めていた。何を思っているのだろうか。母を眺めるパパを眺める。
僕の視線に気づいてパパは微笑み、立ち上がり僕の隣に空いていた座布団に腰を落とした。特別、口を開くこともなく、2人でぼんやりと線香の匂いがする部屋を味わった。
が、せっかくだから都市伝説なるぬ家族伝説の真相でも聞いておくかとパパに声をかけた。(こういう話はスペースドッグの皆んなが喜ぶのだ。)
「ああ、そういえば、曖昧なんやけど、俺がまだ小さい頃さ、浮気相手を車から突き落としたって話あったような気がするんやけど、それってほんまなん?」
あくまで家族伝説、
決めつけてかかってはいけない。
「半分、ほんまで、半分、ちゃうな…」
父は再び立ち上がり部屋の中をぐるぐると歩き出した。
「俺が突き落としたんじゃなく、自分から飛び降りたんや…」
つづく