『現代短歌パスポート4』読書メモ
書肆侃侃房発行の『現代短歌パスポート4 背を向けて歯軋り号』を読んだ。
気に入った歌をここに挙げておく。たまに自分勝手な付記を添えてある。
風の旅券 スノードームのサブスクがあったらいいと思う高台
岡本真帆「夏の骨 風の高台」より
おにぎりを食べると海苔の音がする 君は雨雲レーダーを見る
永井祐「ピクチャーディス」より
付記:
実際の光景はまったく違うのだろうが、逃亡中の二人の景色が思い浮かんだ。
二人は車で逃げている。一方は途中で買ったおにぎりを食べている。もう一方は向かう先の天気を気にしている。
雨雲が近づき空気が湿ってきているが、開封したばかりの海苔はまだ乾いていて齧ると音がする。その音が妙に大きく車内に響く。二人とも黙っている。
わたしはいつもみんなより先に死んでしまい頼られることは少ない
野村日魚子「医学」より
テーブルに水ようかんが置いてあるこの夏をずっとくたびれていく
阿波野巧也「祭りのあと」より
付記:
実家の光景のように感じた。水ようかんという食べ物の古風な印象がそう思わせるのかもしれない。
みずみずしくのっぺりしてとことん甘く黒い菓子は、確かにくたびれているように見える。
眼の底にしずかに育つ神殿よ食べてゆけない学問をして
鳥さんの瞼「変形」より
また同じさびしさだでもこれをさびしさだとだれが決められようか
染野太朗「ろくでもない」より
あさぼらけ! 悪夢を見るのは若いから最寄の海には海岸が無い
手塚美楽「あなたがわたしにできることはなにもない」より
付記:
最近悪夢を見ることが多い。
「若い」が未熟であることを指すなら、おそらく私は一生悪夢を見ることになる。ちょっと嫌だ。が、それもありかとも思う。
以下は悪口。読まなくて良い。
このシリーズのデザインについて、致命的に気に入らない点がふたつある。
フォントにゴシック体を使っていることと、ノンブルを本のノド近くに配置していることだ。
特に気に入らないのは後者だ。ノンブルがたいへん見づらい。
デザインとは機能である。その意味ではこの本におけるノンブルは完全に死んでおり、存在していないのと同じだと思う。