モモ
田んぼに囲まれた田舎道で、
ヨチヨチと歩いている小さなアヒルを拾った。
正直、アヒルかどうかも分からなかった。
アヒルにしては薄汚れているし、
ただこの辺を歩いているのだからアヒルだろうと思った。
抱きかかえると、アヒルは低い不細工な声で
「ヴー」と鳴いた。
お世辞にも可愛いとは言えなかった。
それでも、大人になるまできちんと育てようと思った。
白鳥になるかもしれない。
かの有名な童話のように。
一生懸命、アヒルを育てた。
薄汚れたアヒルを小さなバケツに入れて泳がせると、
段々と桃色になっていった。
相変わらず「ヴー」と鳴くアヒルに、
モモと名付けた。
モモは少しずつ大きくなっていく。
成長するにつれて、段々と茶色になっていった。
日に日に大きくなるモモは、
いよいよバケツに入らなくなった。
モモに、子ども用プールを買った。
「こいつは、白鳥にはならない」
人々は声を上げた。
「お前はまた、変なことをしているのか」
みんなはいつものことだと嘲笑った。
最早その言葉たちに傷付く心など
すっかり消えてしまった。
気持ち悪い。
こんな鳥は見たことがない。
きっと突然変異で生まれたのだ。
そんな鳥を育てるお前は馬鹿なのだ。
モモは心なしか悲しそうだった。
酷い言葉を向けられるよりも、
余程その顔を見る方が辛かった。
日に日に大きくなっていく。
子ども用プールには入らなくなった。
家の近くの川に入れてやった。
モモを川に連れて行ったことは、
誰にも言わなかった。
モモは近頃、薄い黄色がかった鳥になった。
みんな、モモが居なくなったことを安堵した。
モモには毎日ご飯を与える。
いつしかあの低くて不細工な
「ヴー」という声は聞こえなくなった。
モモは鳴かなくなった。
いつしか、川からネッシーのような
怪獣が現れるという噂を耳にした。
モモはある晩、いなくなった。
前兆も無く突然だった。
誰かが捕まえてしまったのかと思ったが
そんなニュースはどこからも聞こえなかった。
モモが居なくなった。
それはとても寂しいことだった。
ある晩海の方から、巨大な怪獣がやってきた。
ドスンドスンと、大きな地響きを立てて。
人々は逃げ惑ったが、
そんなことはお構いなく、
建物や人々などを踏み倒しながら、
小さな街を歩いて来る。
モモだ。
モモが会いに来てくれたのだ。
モモはこちらを見ると、
一度立ち止まって顔を近づけて来た。
モモはくちばしで首の方を優しく摘むと、
そのまま背中に乗せてくれた。
ドスン、ドスンと歩き出す。
モモは真っ白になっていた。
美しい背中に乗って、
モモは歩き続ける。
逃げ惑っているちっぽけな人々など
気にならない程、
背中から見える景色は綺麗だった。
どこに向かうかも分からない
モモに人生を委ねて、
この背中の上で
生きていきたいと思った。
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