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SNS 恋愛小説/MAYBE〜糸電話〜 第9話

《人魚姫と飴玉》


2月16日

翌朝は、ようやくの日曜日。
でも一応、朝食前にMAYBEをチェックする。

【ビート】
ナッキー
「みんな、届いたかい?オレの伝説の日の話は」

【返信】
飴玉
「きいたよ!ワクワクした〜♡」
ドラコ
「あんたの鼻息の荒さで勘付かれて…って話は聞いたよ」
ナッキー
「飴玉ちゃん、ありがとう!! ドラコ、それは違うぞ!先輩は初めからその気があって渡してきたんだからなっ」
K氏
「友チョコを?」
ナッキー
「コラッ、K氏までいうか!オレはGOsignを出しただけだろ」

ふふっ、楽しそう笑。
けど、わたしには昨日の玲音のことも気になっていたから、朝食と共に、先に玲音の様子を見に行くことにした。

リビングのテーブルにはお母さんだけで、いつもの通り急いでお弁当の用意をしているところだった。

うちは母子家庭で、母は土日も仕事に入る。販売業務だし仕方ないけど、もう少し小さい頃はやはり寂しかった。
忙しそうに弁当箱を包んでいるけど、声をかけた。
「おはよう。お母さん」
「あ、おはよ。そろそろ出かけるから、今日も後よろしくね」

急いでそういう母に、声をひそめて聞いてみる。
「ね、玲音から話聞いた?」
母は少し手を止め、真面目な顔で小さく頷いた。
「先生に相談した方がよくない?」
そう言うと、母の顔は曇った。そして、
「そうだけど、先生からその子たちに注意してもらって、よくなるのかね。話さないよりいいかもしれないけど…」
わたしもそう思うところはある。
「困ってるのに黙ってても解決しないでしょ?せめて、知ってもらわないと」
母は、小さく何度か頷くと
「そうね、じゃとりあえず行ってくるから、近いうちに、ね」
母がバタバタと出かけて行くと、わたしは少しホッとして、炊飯器からご飯をつぎ、お味噌汁と納豆も用意した。
すぐに玲音もやってきたので、2人で「いただきます」をした。

朝食を食べ終えると、玲音は宿題を頑張らなきゃと言って、部屋に戻って行った。
わたしはというと、友達との約束もない気楽な休日をの〜んびり楽しむ為に、食後のカフェオレまで入れて部屋へ戻る。

でも、これといって何かしようとも思いつかない。
ん~…と、またスマホに手を伸ばした時、ポツンとDMが入った。
K氏!?
と思ったら、珍しく飴玉から。

【DM】
飴玉
「おはよう、今日予定有り?」
まあ
「それが、今何しようか探してるとこだったの」
飴玉
「こないだの、悩みの話聞いてくれる?」

あー!そうだったよね。今が最適に空いた時間だ。

まあ
「聞く!!」

なんとなく、飴玉はこの話を他の人にはしないつもりのような気がした。
飴玉
「ね、これ皆には内緒にしてくれる?」
あ、やっぱり。
まあ
「うん、わかった」
飴玉
「K氏にも」

なんでそっち、ちょっと事情知ってそうなの?笑

飴玉「じつはね、お母さんがちょっと様子が変なの。お父さんと仲が悪くて、ずっとわたしにお父さんのへの愚痴ばかりだったんだけど、2日前くらいから何も言わなくなってね。そのかわり、なんだか…ボーッとしてるの。それに、ときどき部屋にこもっては独り言を言ったりしてるの。ね、おかしいでしょう?わたし心配で…」

まあ
「それ、心を病み始めてるってことじゃない?飴玉、こないだの話をお母さんにした?」
飴玉
「した。あんまり頭にきたし、ついにお父さんの尻尾をつかんだって思ったからさ!」

もしかして、
まあ
「それ、お母さんにとって、すごくショック過ぎたんじゃない?この3日間、その人の所へ行ってるってことでしょう?そりゃあ、絶対に確かなことかは、まだわからないにしてもさ」
飴玉
「でも、お母さんはお父さんのこと大嫌いなんだよ?わたしも、前よりずっと嫌いになったけど」
まあ
「そうかもしれないけど、不倫してるなんて…あ、ごめん。その…考えもしてなかったのかもしれないじゃない?さすがに、そんな事急に知ったら、どうなるか…」
飴玉
「そうなのかなぁ…。わたし、どうしよう」

あ、傷つけたかな。
まあ
「まだ、どうなるか分からないし、お父さん帰ってきたら何かまた変わるかもしれないよ」
酷いことにならなきゃいいけど。
飴玉
「うん、そうだよね。わたしも、お母さんに別人だったかもしれないって言ってみようかな」

それも、いいことなのか分からないけどね。
まあ
「まずは、何か話してみるとかは?できればあんまり、刺激しないように。嘘は…、いいのかどうか分からない」
飴玉
「そっか。いつもみたいに話せるか、分からないけど…やってみる」

何か、手遅れじゃないことを祈る。
まあ
「なんか、そんなにいい案も出せなくてごめんね」
飴玉
「ううん、気にしないで。聞いてくれて本当にありがとう!あ、それとさぁ、K氏と、付き合い始めたの?」

あー、それもまた難しい質問だ…。なんて答えていいか。
とりあえず、

まあ
「付き合ってないよ」

としか、言えないよね。今のところは。
飴玉
「じゃあ、わたしK氏に告白してもいいかな?」

えぇっ!? なに、この状況…。
それは、なんていうか、マズイ。
K氏が事情説明しちゃうのも困るし、(今はそっとしててほしい)万が一(?)飴玉のことも目に入って心が揺れたりしたら…なんて考えたくもない。飴玉は家庭のことまで相談してくれてる仲だし
まあ
「それは… 嫌かな」

素直に言ってみる。だからって何かが変わる?
止めたって、付き合ってないのにわたし、何にも言う権利ない。
飴玉
「うっそ~だよ〜!K氏好きじゃないから、安心して」

はぁ?
飴玉
「わかった。今はそれだけ聞ければいいよ」
まあ
「あ、あの!K氏には、まだ言わないでね」

彼も、素直に話しちゃいそうだし、返事は約束の日って決めてるから。
飴玉
「OK♪でも、付き合うことになったりしたら、ちゃんと報告してほしいな」
まあ
「もちろん、その時は報告するよ!!」

わたしは焦って、急いで返した。

はぁ、ビックリした。本当に飴玉がライバルになるのかと思ってドキドキしたわ。
わたしは、少しぬるくなったカフェオレをゴクゴク飲んで、少し落ち着くことにした。
だって、ここのところいろいろ悩むことがあり過ぎて、嬉しかったり心配だったり忙しいんだもの。

わたしは、ぼぅっと部屋の中を見渡してみる。そして
なんとなく本棚から、子供の頃買ってもらった本を、そっと手に取ってみた。
真っ青な布でカバーされてる古い絵本。
表紙には、金の刺繍ししゅう文字で『人魚姫』とある。

買ってもらったのは小学1年生の時だけど、中学生くらいの頃に一番はまって読んだのを覚えてる。
悲しい物語なのに、なぜか大好きだった。
どうしてだろう?
作者の、叶わなかった恋のつらさを、とても強く感じさせられるように思ったのかもしれない。
自分が小さい頃から、好きになる子と仲良くなることができなかったから、わかるような気がするのかな。

そんなことを思いながら、自然とわたしの指はその厚い表紙をひらき、古くなった紙のページをめくっていった。

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