最後の授業で

大学の最後の体育の授業の日は雨だった。グラウンドから体育館に場所を変更して行なったのは、ストレッチだった。ストレッチなら何の準備もいらないので、場所の変更にも、人数が多くても対応できるということだったのだろう。
先生の指示に従って、ひとつの動きを十から十五呼吸くらいかけて、反動をつけずにじっくり伸ばしてゆく。それを、途中休憩もなく九十分間。そんなにみっちりストレッチだけをしたのははじめてだったし、それ以降もおそらくない。それが、とてつもなく気持ちよかった。身体のすみずみにまで酸素が行きわたったような気がした。
身体を動かして「気持ちよかった」「楽しかった」と思えたことがほぼなかった中で、この一齣の授業は飛びぬけてよい思い出になっている。
授業の終わりに先生が、
「これでもう学校で行う体育の授業は終わりですが、運動というのは健康のために必要なものですから、自分に合ったものを見つけて一生続けて下さい」といった話をして下さった。先生の名前も顔も(申し訳ないことに)まったく思い出せないのだが、その話だけははっきり覚えている。
やはり、ひとと競うことなく、ゆるやかな動きをする中で、自分の身体に向き合うというのが性に合っていたのだと今頃になって気付く。あの時本当に大切なことを教えてもらっていたのに、それを再認識するまでに何という遠回りをしたことだろう。

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