永田典子のうたを読む(3)
・秘かなるたくらみありてメモを置くこの一瞬のときめき如何に 永田典子*
何かよいことが閃いた時の昂揚した気持ちがストレートに詠まれていて、読んでいるこちらの心の中までがきらきらと明るむような歌。この「たくらみ」とは一体何だろう。「秘かなるたくらみ」と聞けば気になるではないか。
文章を書いたり歌を詠んだりといった個人的な創作のアイディアではないような気がする。書くということは例えば夜、息をひそめて自分の中へ沈潜してゆくような営為だろうから。「ときめき如何に」といった華やいだ気分につながるのだとしたら、それはもっと人との関係に向かって開いてゆく「たくらみ」ではないだろうか。根拠のない想像だが、これは歌誌「日月」の編集か、あるいは「日月夏の会」(結社の全国大会)に関する企画だったのではないか。これだ!というアイディアを思いついて、忘れないうちに大急ぎでメモに書き、卓上に置いたのである。(きっと面白いことになるゾ……こんなこと誰も思いつかないよ……)と静かに心を弾ませながら。この「メモを置く」という三句目、ミニマムにして情景が伝わる実によい表現だと思う。
「日月」は、会員それぞれが生き生きと活動できることを何よりも大切に考えて運営されていた。主宰である作者は、歌誌にしても大会にしても、短歌という枠内に小さく収まるのではなく新鮮で広い世界の風に触れられるようにと常に考えていたし、それを仲間たちと実現させてゆくことを楽しんでいた。本当に稀有な場だったと思う。
*「歌壇」二〇一四年十月号 「真夏の時間」十二首作品より